小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結
20
俊也が困惑の表情を浮かべ、黎と恥ずかしそうな星の顔を見比べている。
「お前が紫陽(しよう)か」
主夜が、俊也の後ろに隠れるように立っていた少年に声をかけた。
「はい」
男子にしては少し高めの優しい声だ。
大きな琥珀色の瞳が、不安そうに主夜を見上げている。
目線の差は30センチはあるだろう。
〈ふむ…。何をどうすればコミュニケーションがとれるのか、まるきり解らんが…〉
とりあえず紫陽の不安を取り除いてやろうと、山の小動物を手なずけるときのように、右手をそうっと柔らかそうな髪に伸ばす。
びくりと紫陽の肩が揺れた。
〈なんだ、小動物の仔と変わらん反応だな〉
笑いそうになるのをこらえながら、触れている髪の先からジワリと気を流す。
〈恐れることはない。俺はお前を傷つけるつもりはない〉
思いを気に乗せて、紫陽の髪の先からゆっくりと流してゆく。
最初不安そうだった瞳が、驚いたように見開かれ、やがて安心した色になる。
本当に、小動物の仔にそっくりな反応だ。
「俺は、主夜だ」
声に出して話しかけると、紫陽の顔がぱっと明るくなった。
「紫陽です。よろしくお願いいたします」
主夜の手を頭に乗せたまま、にこにこと見上げてくる紫陽は、とても幼く小さく見える。
くしゃくしゃと少し乱暴に髪をかき回して手を離すと、麻がしっかりと紫陽の手をにぎった。
「神族の桃子お嬢様のお子様ですね。かわいらしいこと。私のことは麻(あさ)とお呼びください」
紫陽が再びびっくりした顔になる。
「僕は黎だよ。よろしくね、紫陽ちゃん」
黎が主夜のしたように、紫陽の髪をかき回す。
「私は星です」
星が紫陽の肩にそっと触れた。
三者三様の温かい気を一度に受けて、紫陽の顔がピンク色に染まる。
そのかわいらしさに、主夜の唇が笑みの形になった。
「ぼくは、紫陽です。よろしくお願いいたします」
「紫陽ちゃんにも言っておくけど、星のことは好きになっちゃだめだよ。僕のだから」
「はい。では、黎さまのことも、好きになってはダメですね?」
不安と緊張の取れた紫陽は、頭の回転も速いようだ。
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