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何となく外に出たくて僕は下駄を履いて傘もささずに雨の中を歩いた。どこかに行きたいわけではない。ただこの大嫌いな生温い雨の中にいればあいつに会えるような気がしたから。
あいつは半妖だった。でも初めてできた僕の友達。人間と妖怪の間から生まれ両者のほうからも蔑まれて生きてきたあいつはどこか僕に似ていた。だからなのだろうか、あいつとは長い付き合いであいつはよく僕を裏切った。それで何度命の危機にさらされたのか数えようもない。もちろん怒りだってあったし仲が悪くなったのも何回かあった。でもそれでも直今現在まで付き合っていけたのはお互いに何かが引かれあっているからだと思う。
気味の悪い子供だと人間から冷遇を受けてきた子供と人間と妖怪からの間に生まれてきたばっかりにどちらからも自分を受け入れてもらえなかった青年。どこか違うようだが根本的に似ていると思うのは「愛される」ということをお互いに知らないのだ。
「寒っ…」
生温いとはいえど水が体に降り注がれ続けられるのはやっぱり少し寒さを感じる。あいつなんて来ないかも知れないのに。いや元から約束すらしてないのだから来るはずがないのに。
なんでだろう、それでも心の片隅になぜかあいつが来ることを望んでいる自分がいるのだ。こんなにも一人の人物に執着するのも多分あいつが初めてだ。今や僕の回りには仲間と呼べる人物が格段に増えたし僕自身彼らのことをとても信頼しているし信用している。それでも隣にあいつが居てくれないのはみんながいない時よりひどく悲しい気持ちになるのだ。
そばにいてほしい。ただそれだけなのに…
雨の量がさっきよりも格段に増えた。やっぱり家に戻ったほうがいいかと思い元来たほうへ体を向けたときつい足が苔を踏んでしまいズルリと滑ってしまった。「うわっ…!!」
体制を整えようにもすでに体は傾いてしまいどうすることもできない。
すぐ後ろは池。
ヤバイ
落ちる…!
目を閉じて落ちるのを覚悟した。
バシャーン!
派手に大きい音を出しながらそこまで深くない池にそのまま落ちた
はずだった。
「いてて…おい鬼太郎大丈夫か?」
僕が溺れないように体を抱き抱えて池に落ちてまで庇ってくれたのは紛れも無いさっきまで僕がずっと会いたかったあいつだった。
「ねずみ男…なんでここに…?」
おかしいとでもいいたげな顔でねずみ男に尋ねるといつものとぼけたようなそれでもどこか確信をもった顔で僕の問いを返してきた。
「おまえが寂しがってるんじゃないかと思って来てみたら…やっぱりオレの勘当たったみたいだな」
今の僕はどんな顔をしているんだろうか。でも何となくでわかる。泣いてる、きっと僕の頬を伝ってるこの雫は雨水だけのせいではないだろう。
池からあがり家の中に入ってその辺にあったタオルで体を拭く。寒くなってクシュンと小さくくしゃみをすると後ろからねずみ男が抱き着いてきた、というよりは寒くならないようにタオル越しに体を合わせてきた。
「やめろよ…もう子供じゃないんだから一人で出来る」
「オレにとっちゃおまえはまだ全然子供にしか見えねぇーよ。それに」
ねずみ男の腕がさっきよりきつく僕を抱きしめる。
「あの嵐の日に会ったときからおまえはいつも誰かにそばに居てほしそうな目をしていた」
ああそうだ。あの嵐の日に初めておまえと会ったとき僕は熱で倒れてしまった。遠くで僕のことを必死に呼ぶおまえの声を聞いて心配されるってこういう気持ちなのかと人事のように聞いていた。
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