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暗い暗い嵐の夜

目をあけるとそこは冷たい土の中でたった今僕は隣にいる冷たくなった母親から産まれてきたのだろう。
酸素を求めようと土を一生懸命掻き分けやっと土の外に出た。真っ暗で片目しかない目を懲らして地上を見つめた。


ここはどこだろう…?


遠くの場所では雷がなっていて木々が怪しく揺らめいている。


どうしよう、どうしよう

怖い、恐い、こわいよ


ねえだれか来てよ
ここはざあーざあーと雨が降っていて寒いんだ。
回りは墓地ばかりでだれもいないんだ。誰も僕に気付いてくれないんだ。




おねがい



だれでもいいから



僕のそばにいて……





++闇に降る雨++






嫌な夢を見た。あまりの蒸し暑さにせっかくの昼寝も台なしだ。外は数日前から雨が降り続けていて池ももうすぐで溢れかえりそうだ。
まだ覚醒していない頭でさっきまで見ていた夢を思い出す。
「なんでいまさらあんな夢なんか…」
忘れていたはずだった。いや忘れたくて忘れようとしたんだ。

生まれて間もない僕は墓場から生まれある血液銀行に勤めていた人間の男に拾われ6才まで育てられた。
その頃から僕は幽霊や妖怪と話すことも触れることも出来たし、切符さえ持っていれば地獄にだって行き来できた。当然他の人から見れば僕は普通の人間ではないと言われた。そんなことまだ小さかった僕ですらわかっていた。僕は他の子とは違う。父さんから僕は幽霊族のたった一人の子孫だと教えられた。だから僕は人一倍強い能力も持っているし誰よりも強くなきゃいけないんだ。そんなこと始めからわかってたのになぜだか言われてみるととても悲しい気持ちになった。
まるで僕だけ置いていかれてるみたいで、なんだか心細かった。
そういえばそんな時だった。あいつと初めて会ったときもたしか雨が降っていた。淋しくて寂しくて誰かに側にいてほしくて、それがどうしても押さえきれなくなったとき雨の中僕は走った。走って走ってずぶ濡れになってもこの感情を押さえ切ることが出来なかった。
『おまえ風邪ひくぞ。こんな雨の中そんな格好で』

疲れきって道路の真ん中でへたれこんだとき目が霞む中見たのは黄色い薄汚れたローブを着た僕を見るあいつの顔だった。
「−――、っ」
そしてそこで僕の意識は途切れた。途切れる寸前に聞いたあいつが僕を必死に呼ぶ声をどこか他人事のように聞いていた。



「父さん…?」
いつも一緒にいる父の姿が見えず辺りを見渡したがやっぱりどこにも見当たらない。こんな雨だというのに一体どこにいったのだろうか。ふとちゃぶ台をみると一枚の紙切れが置いてありみるからに父が書いたであろう手紙を一字一字読んでいった。

『今日は子泣き爺たちと酒飲みに行ってくる。この天気だと今日までに帰りそうにもないので明日必ず帰る。風邪ひかないように戸締まりをきちんとするんじゃぞ。』

なるほど、それで父さんがいないわけだ。あの子泣き爺に誘われては断ることなど到底できないだろう。妙に納得したあと不意に込み上げる寂しさと悲しみ。


あの嵐の夜僕は一人で墓場から産まれて一人で他人の家で暮らし一人また僕は捨てられた。
僕の昔の記憶といえばいつもどこかリアリティに欠けていて誰かと一緒に共に行動するというのがほぼないに等しいのだ。
父さんはよく一緒にいてくれたけどなぜか僕はいつも寂しかった。もしかしたら友達がほしかったのかもしれない。人間は嫌だ、だって別れが早くなるから。また僕は一人取り残されてしまうから。
できれば妖怪の…自分と同じ境遇に置かれた友達が…。





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