[通常モード] [URL送信]

それは初夏の(奏々)完
T
 それは初夏の、来る夏を疎ませるように暑い晴れの日だったと思う。僕はとんでもないものを見た。
「なあ、すまないんだが、向こうの道まで連れて行ってくれないか。車通りの多い日はどうにも困る」
 僕は聞こえないふりをして通り過ぎようとした。こんなことあるわけない。あっちゃいけない。だってあるわけないんだから。これは夏の始まりに浮足立った僕の見た幻覚に決まってる。
「おい、無視するなよ、虫だけにさ、ってね」
 もう花の散り、青々とした沈丁花の葉の上で、立派な鎌を持ったオオカマキリが、僕に話しかけた。

[次へ#]

1/2ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!