習作(消火器) 6 それから後のことについては、よく知らない。私が住まいを移したというのも、その原因の一つである。 風の噂によると、あの後、例の女王の城に不気味な老婆が出入りするようになったという。また、森の奥深くで、女の歌声のようなものを聞いたという人もある。 私にはそれらが、森に消えた姫とどう関係しているのか分からない。もしかすると、全然関係ないのかもしれないが、それすら知らない。 だが、自分自身のエゴに過ぎないと知っていて、それでもなお、私は願わずにはいられないのだ。 可能性は、極めて低い。あれは姫の臓物ではないと、女王は知っただろう。そして当然、怒り狂う筈だ。 内臓を持ち帰れと命ずる人間である。憎しみもそれほどだったと考えれば、しつこく確実なやり方で、姫を追ったと思えてならない。仮に野獣から逃れられたとして、その時、果たしてあの少女が生き延びることが出来るか。 だが、もし叶うならば、生きていてほしいのである。女王の指先をも上手く潜り抜けて、何処かに生きていてほしい。 何の理由も無いが、そう思う。 [*前へ][次へ#] [戻る] |