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習作(消火器)
4
今も、時々考えることがある。
私は、最初から彼女を殺すつもりなど無かったのではないだろうか、ということである。
獣ではない、人間を初めて手にかけることへの恐れは無かった。女王を恐れていただけで、気持ちの奥底では、可哀相な少女を逃がすつもりでいたのか。
だが何度考えても、その時の心境など、とても思い出せそうにない。
確かなのは、全ては終わった過去の出来事で、私は結局、情のままに少女を逃がしてやってしまったということである。
「それなら、行くといい。…絶対に、帰ってくるんじゃないよ。」
自分でも驚くほど落ち着いた声音で、大体こういう主旨のことを言った、と思う。
女王から命令を受けた時には、何も考えなかったつもりだった。女王にも何か理由があって、それがどんなに些末なものでも、私が探るべき対象ではないと思った。
しかし、どんな理由があって一人の少女の命が奪われようとしているのかは知らないが、憐憫の情が全く湧かなかったと言えば、嘘になる。
彼女にも外からは分からない非があるのだろうと、無理矢理考えてみたりもした。だが、その考えも、少女への憐れみを消すには浅過ぎた。
まさか、その思いが知らぬ間に膨れ上がり、結果として姫を解放してやってしまうとは。
自分が罰を受けるなど、考えなかった。勿論頭では分かっていたが、どうにかなるという妙な自信とも驕りともつかない感情の中にあって、私は至極冷静に、彼女を逃がすことを選択してしまった。

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あきゅろす。
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