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習作(消火器)
1
今までのように、自分の身しか考えていなかった。
女王の命令は絶対で、私のような一介の狩人などが逆らってみたところで、噂に聞く「魔術」とやらで消されるのが精々だと思っていた。
だから、姫の肺と肝を取って来いと命じられた時も、いつものようにすればいいのだと自身に言い聞かせた筈だったのだ。
罪だ悪だといったものは勿論、己の意思すら無関係だと。ただ、鳥や狐を仕留めるのと同様に、その命を絶てばいいのだ、例え相手が無垢な少女だろうと、あくまで私は女王の命令に従うだけなのだ、と。
実際に、連れ出したまでは良かった。
姫の白い足を低い枝が傷付けても、森の虫が裾に取り付いても、彼女は黙って私に付いて来た。
若い娘の足では、明らかに森は楽な道ではない。しかし、騒ぐことはおろか、行き先すら尋ねてはこなかった。
城から離れた、少し開けた場所に出た。私が度々、鹿を獲るための罠を仕掛ける空き地だ。枝々の間から日光が点々と零れてい、湿った土や少女の柔らかな肌の上に斑模様を描いていた。
あんな細腕に抵抗されたところで、どうということもない。私は、とにかく早く終わらせてしまいたかった。使い慣れたナイフで、一突きにするつもりだった。

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あきゅろす。
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