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短編小説対決

 彼女は気付きました。本当に、いつもより長かったのです。確かに四階分は降りたはずなのに、まだ下へと踊り場が続いて見えるのでした。全く、今日はどれだけ疲れているのかしら……? そこを降りても、まだ下へと階段が続いていました。彼女は、怖くなりました。彼女は走りました。一階、二階、三階、四階、五階、六階分降りても、階段は終わりませんでした。
「いやああああああああああああああああああああああ!」
彼女は叫びました。戻りたい、戻りたい、戻りたい、戻りたい! 彼女は、今度は階段を駆け上りました。手で耳を塞ぎ、無我夢中で走りました。これが夢でありますように……!
 案外簡単に、四階に着きました。この階段には上限はあるようです。彼女は、素晴らしいことに気付きました。教室からみんなの声が聞こえてくるではありませんか! 彼女は五組の教室へ走り、開いているドアから駆け込みました。
 みんな、いつものままでした。彼女は本当にホッとしました。恐怖から解放されると、一気に汗が出てきます。彼女はそれを誰にも気取られないように、いつものように振る舞い、自分の席に着きました。何事もなかったかのように、また小説を広げます。彼女は小学校時代にあまりでしゃばりすぎて、いじめの対象になってしまったことがあったのでした。父の転勤で遠くの中学に通うことになり、心機一転、おとなしい系のキャラを貫き通しているのです。彼女は、みんなが楽しそうにしているだけで楽しくなることができました。
 八時十五分。先生が入ってきて、教室はある程度静かになりました。先生は何も言わずに生徒たちを軽く見まわすと、出席簿をつけていました。それが終わると、先生はプリントを配り始めました。彼女の分がありません。
「先生、一枚足りません」
先生が話し出すのと重なったので、聞こえていないようでした。
「今日は、みんなにお話ししなければならないことがあります。ちょうど今朝、花川美奈子さんは交通事故で亡くなりました」

おわり


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あきゅろす。
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