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短編小説対決
「空港、目玉、蠅」(kankisis)完
 それはとある空港で発生したが、しかしそれがなぜその場所で発生したのかは誰も知らない、知ろうとさえしない。少しだけ手元には証言が残っていて、最近それが書類の山の奥深くから発掘されたので、ここに書き残してみるのも一興かと思った。しかしやはり、さすがにその全てを読み返す気力は、その事件の特殊性、言うなれば悲惨さがあまりにも異常な値を示しているために、おそらくは数少ない読者諸君には殆ど湧いてこないだろうと思うので、全部はここに示さない。
 まず、私の誠実な友人であるG氏は、「あんなに吐いたのは人生でも初めてだ――多分これからもあんな目にはきっと遭わないだろうし、全く遭わない事を祈っている……実際、冗談ではなく毎日一時間毎、いや、一分毎に祈っている位だ」
 次に、ある資産家の娘のS嬢は、「虫が沢山飛び交っていたわ、あれはきっと蠅よ、そうに違いないわ、でも、他の物は全く視線を向けられなかった……あれ程怖い体験、どうして話しただけでわかるものですか」
 多分最後に、通り掛かりの警察官B氏は、「おそらくあの状況を完全に見て取って把握できた者は一人もいまい。何がなんだか、パニックに陥る隙もなく事は終わってしまったからね、でも、僕達は今も常に、その事実に襲われ続けている。あの状況はとても一言で言えたような物ではないが、もし一言で言い表すとすると……地獄だね。そして、今のこの状況も、地獄だね」
 まだわからない人の為に、彼等の両目玉は今、機能していない。


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あきゅろす。
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