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リレー小説
紺碧
    3

「やりやがったのか……!」
ジョンは情報を聞いて狼狽した。つまり、第二の騎士が動き出したという事だ。ヘリコプターを爆破するだって? 全く、あいつらしいやり方だ。そして、ジョンの最も嫌うやり方だ。
「で、あいつはなんてダミーを流したんだ?」
電話の主は笑いをこらえられないようだったが、なんとか声を絞り出した。
「くっくっく、ダミー情報じゃない。俺たち騎士の仕業だと、堂々と宣戦布告したらしいぜ。おかげで共和国政府は大騒ぎだ……ああ、ニュースを確認しても無駄だぞ? 政府が本当の情報を開示するはずは無いからな」
ジョンは唇を噛んだ。
「いくら我々に“人間を殺す権威”が与えられているとはいえ、それはあくまで権利であって義務じゃない。無駄に殺し続けてもろくな事にはならないんだよ」
「お前はいつもそうだな、ジョン。だが、俺たちにあの計画を阻止する義務があるのは確かだ。あいつだって必死なんだろうよ」
「だがな、ジム。せめて俺たちに連絡くらいは」
「連絡なら来ただろう」
ジムは意味ありげな一言を発した。ジョンは苦々しげにパソコンを睨む。
「あれだけで全部伝えた気になっているって言うのか。もっと他にやり方があるだろうに」
「おい、ジョン。差支えなければ、今すぐ窓から飛び降りろ」
「何だって?」
「五反橋駅前のカフェまで来い。お客さんだぞ」
ドアをノックする音が聞こえた。部屋の前の廊下から聞こえる、異様に多い足音。間違いなく、秘密警察のお出ましだ。
「一体どうやって嗅ぎつけたんだ?……仕方ない、さらば愛しの我が家よ!」
窓から飛び降りる瞬間、破砕音と共にドアが崩壊した。しまった、パソコンの中の騎士に関するデータを消し忘れていた……いや、そういえばお節介な誰かが事前に手を打ってくれていたようだ。
「宣戦布告の話は本当だったのか。で、どうしろって?」
「今位置情報を送る。そこで接触しよう」
ジョンは走りながら片耳にかかっていたデバイスを取り外し、表示された立体地図を確認した。
「遠いな」
「相手は秘密警察だ。家の前の喫茶店で一服しているわけにはいかないだろう?」
ジョンは黒いオートバイにまたがると、二階で騒ぎが起きているマンションを後にした。

    4

プロジェクトは早くも挫折したかに思われた。突然のテロ攻撃。ヘリコプターは空中で爆発し、粉微塵になって海へ舞い落ちたのであった。教え子の平川共々……ところが、上層部は事件の何の障害とも思っていないようであった。
「〈騎士〉だと? 一体何者なんだ? 何故我々を襲うんだ?」
有島の質問に、誰も答えようとはしなかった。仕方ないので、簡単な説明をする。
「おそらく、国際テロ組織“トランペッターズ”の一員だろう。私たちの活動を最も恐れていると考えられるな。騎士とか、ラッパ吹きとかについては、山田の方が詳しいだろう」
山田を見ると、軽く手を挙げて応えた。
「うん、ヨハネの黙示録を読んだ事は?」
「無いが」
「では、軽く説明しよう。黙示録の中盤、四人の騎士が登場しそれぞれ邪悪な力を持って世界を支配する。その四人の騎士を名乗る者たちが現れたのだ。また、さらに七人の天使がそれぞれラッパを吹きその度に災厄が訪れ、世界を浄化すると伝えられている。おそらくトランぺッターズは、崩壊したアメリカ連邦の十字教の派閥に違いない」
「キリスト教徒か……それなら、我々を敵視するのも無理はない……我々は神を創ろうというのだからな」
「諸君、見たまえ!」
南原が、片手に小さな容器を持って現れた。中には何かの溶液が入っている。容器を高々と掲げると、南原はいかにも得意そうに細長い眉を吊り上げた。
「彼こそ、新たなる救世主、セフィーレだ」


第995号極秘計画、或いはExam of Creating Omnipotence計画。日本共和国の切り札とも言えるものだろう……米国の後ろ盾を失い、終焉の兆しが日増しに如実になる中で何かしらの対策を打たねばならないのだ。
「本当に警備状況は万全なのか? 一体奴はどうやって輸送ヘリに爆弾を仕掛けたと言うんだ」
中山が詰問するが、白服の男たちは全く悠然に構えていた。
「所詮は単なるテロ組織だ、散発的な活動では我々に傷一つ負わせることはできないだろう。三百六十四番目の救世主もそう言っている」
席の一番奥に安置されたモニターを指す。ECOの三百六十四番目にして、第十一世代型スーパーコンピュータの“Wings”の端末が繋がっていた。
「彼女の提唱が正しければ、三百六十五番目の救世主を育成すればこの計画は終了する。セフィーレは彼女を超えるだろう。そして日本の未来を開拓する筈だ。全ては予想済みなのだよ」
「まさか、ヘリの襲撃も……だから核心的な人物たちは離陸直前に降ろさせたのか」
「お前は黙って彼らにセフィーレを創らせればいいのだ」

    5

五反橋駅前の小さなカフェテリアに、一台の白いセダンが駐車していた。その横に、黒いオートバイが停まる。運転手はヘルメットをしていないどころか、明らかに寝間着であった。
「来たか。まあ中に入れや」
今時珍しい手動ドアがカランカランと音を立て、チェックのシャツにベストを着た男が姿を現した。ジョンは憤りを交えた声を上げる。
「何でったってこんな所なんだ。この恰好じゃ、目立ってしょうがない」
「そう怒るなよ」
ジムがにやりと笑う。仕方なく、ジョンは彼の後に続いた。


「いらっしゃいませ、何名様ですか」
「連れだ。ちょっと、奥に入るぜ」
「分かりました。ごゆっくりどうぞ」
ジョンは、店員の態度や表情が不自然である事に気付いた。
「おいジム、こういうくだらない事に権威を使うな」
「別にいいじゃないか。事務所の位置は誰にも知られたくないもんだろう」
店員は微笑んだまま、ジョン達が厨房の奥へ入って行くのも見向きもしなかった。銀色の厨房の奥には、小さな扉があった。ジョンはノブに手をかけたが、開く気配はない。
「おっと、そっちじゃないんだ」
ジムが壁にかかったフライ返しを一回転させると、扉の隣の壁が裂けて通路の入り口が現れた。全く、面倒な事をする。
「俺の家であり、騎士団の本拠地だ。今は俺とお前しか知らないがな……ここから、世界は変わるんだぜ」
通路の先の部屋は案の定暗く、パソコンの画面だけがてらてらと明るく光っていた。その背後には大量の新聞が積まれている。
「こんな所に住んでいるのか」
ジョンのいささか軽蔑的な言葉は受け流し、ジムが本題に入る。
「さて、先刻第二の騎士……ピーター・レミントンから連絡があった。我々の名を無断で使った事に関して謝罪したいそうだ」
「お断りだね。しかし、本当にどういうつもりだったんだ」
「何かしらの考えはあるみたいだよ……今は自衛隊と国防軍にそれぞれ細工をしているそうだ」
「またあいつはろくでもない事を……」
日光の入らない部屋に放置されていた観葉植物にジョンが手をかざすと、葉は黒く変色して萎縮してしまった。
「何するんだ。むやみに権威を使うなと言ったのは君じゃないか」
「すまない、ついやってしまった」
観葉植物は炭化して燻り、もはや原形を留めてはいなかった。


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