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リレー小説
kankisis


 ジョンはけたたましく鳴り響く時計のアラームで目を覚ました。が、アラームを止めるとすぐさま体を包み込む心地良いベッドの中で寝返りをうった。同じことが数回繰り返されたが、ジョンは気にも留めなかった。折角の休日だ、そう邪魔されてたまるものか。
 だが邪魔は入った。
 テレビからはどうということもない小さな可愛らしいニュースばかりが自己主張をし続けていた。時々それを受けて流行遅れのタレントがとてつもなく下品なコメントを発するだけだった(女性司会者はそれに合わせてひどく顔をひきつらせていた)。
 ジョンはようやくベッドから抜け出し、トーストしたての食パンを口にくわえた。そして愛用のパソコンの電源を入れた。来ていたメールを開いた。

“ sefire.wing.kurambom@……”

 本文には唯「これ」とのみ書かれていた。自分の不注意さを責めつつ、ジョンはそのメールを削除しようとした。
 どのキーを押しても反応しない。ジョンはメールのアドレスの意味に気付くと、パソコンを慌てて強制終了させようとした。しかしどのようにやっても無駄だと、ジョンは知っていた。


 鳴る筈のない電話が鳴っていた。「ジョンだ……クラムボンが笑い出した……予想より大分早い……もしかしたら……手遅れかもしれない……セフィーレの翼にだけは……本当に申し訳ない……」
 電話機は律儀に伝言を録音していた。主は部屋を空にしていた。

    2

「……翼は空を飛ぶためにある。これからの日本は、次の世代が引っ張っていかなければならない。君達は大きな翼を持っている。僕のようなよれよれの翼とは大違いだ……さて、余談はこれ位にしてそろそろ本題に戻ろうか……」城ヶ崎翔は黒板に向き直ったが、すぐにチョークを持った手を下ろさなければならなかった。「遅刻だぞ、平川――」教室後方の扉から数人の男が入ってきた。
「これは失礼。……まだ授業中なんで外で待っていて貰えると有難いんですけどね、無理ですか?」
「城ヶ崎教授?」先頭の男が名刺を差し出した。「相崎です。いいですかね?」
 何が“いいですかね?”なのか判りかねたが、城ヶ崎は相崎と名乗った男と教室を出た。「一体何の用で? 私が寝ている間に何かいけないことでもやらかしましたか?」
「いえ、そんなことではなく……」
渡された名刺に目を落とした城ヶ崎は言った。「ああ……もしかしてセフィーレの翼か何か?」
「ええ、そうです。城ヶ崎教授、今すぐ我々と来て欲しいのです」


「政府は事の重大さに気がついたようだ」
「彼等は対策を始めた」
「ある情報元に拠ると“翼”関連の研究者達を一カ所に集めだしたようだ」
 円卓の奧側に座りじっと話に耳を傾けていた男がようやく顔を上げた。「〈第二の騎士〉よ、事を開始してくれ。今を逃せば好機はこの先永久に訪れない。必要なだけ人員を割いて貰っていい」
 どうやらこの場の長らしき人物の向かい側に座っていた人物が席を立った。
「これで全て、我々の犠牲が報われるだろう。それ相応の代償を、対価を得る事になるだろう。……」


「おい、お前、城ヶ崎じゃないか?」
 城ヶ崎は振り向いた。「山田じゃないか。どうしてここに?」
 小型の飛行機で城ヶ崎は見知らぬ土地に連れて来られていた。そこには高い柵に囲まれた施設があり、城ヶ崎は施設のホールで待たされていた。
「政府の人間が研究室に訪ねて来て、俺に来て欲しいと言うから来てやったのさ。後からまだ何人か来るぞ」山田の言う通り、十分後、ほぼ同時に五人が警備員の付き添いと共にホールに入った。互いに軽く挨拶をすると、指定の席に着いた。やや遅れて責任者らしき男が奥のドアから入って来た。
「ここで皆さんにお集まり頂いたのは、ある危機がこの日本共和国に迫っており、……」城ヶ崎は飛行機に乗る直前に手渡された資料の表紙を眺めていた。表紙には“plan:ECO365 CODE.0955 極秘”とあった。「……一週間後には第二陣が到着し……」資料の中身は一通り目を通してあったが、殆どが既知の内容だった。しかし一つだけ城ヶ崎の知らない事があった。「……皆さんがここにいる間、我々が快適な生活を提供させて頂きます……」
「君、名前は?」延々と続く説明を遮るようにして、隣に座っていた男性が話し掛けて来た。
「城ヶ崎翔」「私は有島重雄だ。よろしく」「専門は?」「哲学だ。政府の元で働いてる。君は?」「セフィーレの翼」「“翼”か! 後で色々教えてくれよ」
 到着初日は荷物や自分の考えを整理する事に忙しく、他の研究者達とまともに自己紹介をするのは施設到着後二日目になった。
「城ヶ崎教授、南田智子です」
「普段は何を?」「地球物理学を。……どう思います? 今回の事」「まず、何かとんでもない事が起きているのは確かだな。今までこんな事あったか? 共和国政府が民間の研究者に助けを求めた事なんて一度としてなかった。山田の奴はどこかで宗教を研究していると聞いたし、あそこで外国人と話している有島は……政府の元で働いているんだったかな」
 有島とアメリカ人のアラン・ケッペンハウゼンは他の五人から離れた場所に陣取って何やら熱心に話し込んでいた。
「城ヶ崎、南原氏と一条さんだ」城ヶ崎は山田の声に振り向いた。「ああ、どうも、城ヶ崎翔です」城ヶ崎は二人と握手を交わした。
 二人はそれぞれ生物学と言語学を専門にしているとのことだった。二人は夫婦で、“黒服の男”に連れて来られたのだと言っていた。
 一週間は特に指示も出されず、唯のんびりとした生活が送られた。


 ヘリコプターの爆音が近づいて来た。「平川も来る筈だ」「平川?」山田が訊ねた。「俺の教え子さ」城ヶ崎は呟いた。
 警備員は殆どが外に出ていた。それに混じって責任者の中山清作もヘリコプターを見上げていた。その時だった。


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