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死なない鳥(緋京)完
II
翌日街に着いたアーロンは散策をしていた。街に着いたは良いもののアーロンは山奥の田舎の村から今まで出たことがなかった。街に知り合いもいない。この街は噂程度にしか知らない。今後のことを考えるためにも街を知る必要があった。
「暑い。暑すぎる。同じ夏でも街と村は違うな。どっかの店で休憩するか」
しばらく歩いて分かったことはこの街が国境付近にあり、貿易が盛んであること。
「所持金もすぐに底をつくだろうし自活しなきゃいけないだろうな。働くとしたらやっぱり貿易関係か。色々行ってみたいところもあるし。でもまだ半分もこの街を見終わってないな。終わってから決めるとするか。」
だがさすが栄えているだけあって人が多くお昼を過ぎた頃からは街を見て回るどころではなくなった。一度人の波にもまれてしまえば逆らうことなどできない。
「迷ってしまった…。この街、道が複雑すぎるんだよ。土地勘もないのに無理して歩いたのが間違いだったな。どこだここ。路地裏か?日も暮れてきたしさっさと大通りにでて宿を決めたいところだが…。ここは素直に人に尋ねるか。」
いくら栄えた街だって日が暮れれば人も減る。ましてや路地裏ならばなおさらのこと。
「人影がまったく見あたらないな。このままだと野宿か?それだけは避けたいな…」
同じような道を歩き続けてそろそろ日が沈みかけてきたときいくつか先の路地からフードを被った人物が現れた。
「やっと見つけた!」
駆け寄っていくとその人物は驚き、走って逃げてしまった。
「え、なんで?ちょっと待てってば!別に何もしないよ!?」
しかしフードが脱げるのもかまわず逃げ続けた。逃げていくのは少女のようだった。
「逃げるんなら仕方ない。あの子を逃がしたら次にいつ人に会えるか分からないんだ。すぐに追いついてやる。」
その言葉どおりすぐに少女はつかまってしまった。男女が競えば男が勝つのは自明の理である。少女は息をきらせていた。遠目では分からなかったが少女の髪は目を引くような赤だった。炎のような紅というほうが正しいかもしれない。視線を感じたのか少女はフードを被ってしまった。
「なんで逃げたんだ?」
「誰でも追いかけられたら逃げるだろう」
「お前が逃げるからだろう。俺は道が聞きたかっただけなのに。」
「あぁ道か。道なら教えてやる。どこに行きたいのだ?」
「上から目線なのは気になるが…助かった。危うく野宿になるところだった。宿を探してるんだが…」
「ではそこまで案内しよう。宿屋まで距離がある。ついてこい、こっちだ。」
少女についていくとすぐに大通りにでたが、少女の話によるとこのあたりは貴族の屋敷があり、もう少し行かなければ宿屋はないそうだ。そしてこの街はその貴族たちの領地らしい。
(また貴族か…。どこも同じようなものだな。)
すっかり日も沈みどの家からも夕飯の香りがしてきた。休憩がてら入った店で一度食べただけのアーロンは腹が鳴ってしかたがなかった。
「ふ、もうしばらく歩けば着く。それまでの辛抱だな。」
どう見ても自分より年下の少女に笑われ恥ずかしく、誤魔化したかった。
「そ、それよりお前このへんの子だろ?こんな遅くまで出歩いてて大丈夫なのか?家の人も心配するだろう。」
「心配か、どうなんだろうな。そういうお前はよそ者だろう。」
「お前って…俺は自分のいたところに嫌気がさしたんだ。それでこの街にきた。」
「つまりは家出少年か。」
「ちゃんと目的もある。山奥の狭い村の中じゃ知り得なかったことを知りたい。」
「ありがちだな。」
「そのために稼いで他の国も行ってみたい。」
「この街で迷ってた人間が大丈夫なのか?」
「今回は人の波に流されただけ…ってさっきから偉そうだし、冷めてるなお前。そういうお前の夢はなんだ?」
「私の夢か、そうだな…あぁ、宿屋に着いたぞ。」
見るとその通りにはいくつかの宿屋がありにぎわっていた。
「本当だ。ありがとう。だがお前の夢を聞いてない。それによく考えたらこんな時間だ。女の子一人だと危ない。送るぞ。」
「案ずるな。家は近い。それに迷った人間をまた迷わすわけにはいかない。」
「少し心配だが正論だな。じゃあ夢を話せ。俺は話したろう。」
「初対面の人間に話すわけがなかろう。」
「な、ずるいぞ!」
少女は笑いながら去っていった。そこには羽根飾りが落ちていた。
「おい、落とし物だぞ!」
だが少女の姿はもうどこにもなかった。


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