『その時』が来たら(柚木)完 ある少女達の会話 二人の少女が、並んで学校へと向かう。道すがらの彼女達の会話は、家族の話、昨日のテレビ番組の話など、他愛も無い物ばかりだ。ふいに、そのうちの一人が、道に横たわる一匹の猫に気付いた。 「あっ、猫ちゃん!」 そう言って、ランドセルに付けたキーホルダーをじゃらじゃら鳴らしながら猫へと近付いていく。 「えっ、待ってよ、花音!」 もう一人の少女も慌てて追いかける。 花音と呼ばれた少女はもう猫のそばまで来ていて、興味深げにそれを眺めていた。 「ねえ涼子ちゃん、この子ぜんぜん動かないの。ねてるのかなあ?」 涼子と呼ばれた少女も彼女に追い付き、その猫を見て、それから小さく息を呑んだ。 「…ちがうよ、そいつ、もう死んじゃってるよ。」 えっ、と声を出してもう一人の少女が驚き、慌てて猫から離れる。 「…そっか、そうなんだ…。この子、このへんの家の猫ちゃんかな?だとしたら、おうちの人、きっと悲しむね。」 「どうかな。ちがうと思うよ。猫って、死ぬ時に人がいないところをえらんで死ぬんだって。自分を知ってる人がいる場所なんて、なおさら、えらぶはずないよ。」 ふうん、と花音と呼ばれた少女が言い、そっと呟く。 「猫って、やさしいんだね。」 「そうかな。」 涼子と呼ばれた少女が返す。 「誰にも知らせずにひっそりいなくなっちゃうなんて、ずるいよ。私は、どんなにつらくて悲しい気持ちになっても、大好きな人の最期には、いっしょにいたいと思うからさ。」 少女の言葉は、既に冷たくなったその猫の骸には、届くはずもない。ただ、太陽の優しい光だけが、彼を包んでいた。 [*前へ] [戻る] |