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『その時』が来たら(柚木)完
さよなら。
 音が聴こえる。
ローファーが地面を蹴る音、学生達の談笑、どこかの家のテレビが流すニュース番組のアナウンサーの声、トースターの音、それに伴う香ばしい匂い。匂い、といえば太陽の匂いもする。真昼のギラギラした匂いとは違う、まだどこかヒンヤリして、眠そうな匂い。
 ああ、朝なんだ、と感じながら、僕はぼんやりと考える。結局、『その時』に感情を抱いちゃったな。誰も悲しませたくないだなんて。散々理解出来ないだとか、面倒くさいだとか思っていたくせに、何だか、僕まで面倒くさい生き物になっちゃったみたいだ。そして、どんどん遠くなる、音と匂い。それでも今までは太陽の光だけは近くに感じられていたのに、今はそれさえ遠い。……寒いなあ。頬に、一滴の水がつたう。…雨かな?やめてよ、寒いよ。色んな物が遠くなっていく。意識まで遠くなる中、僕は最期に願った。
 ああどうか、これから先も、どこかで、誰かが、誰もが幸せでありますように、と。誰も悲しみませんように、と。
 それが無理な理想だという事くらい、分かっている。分かっているけれど、願うだけなら、ただ、だ、よ…ね?……


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あきゅろす。
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