蛍舞う(蒼緋)完
ユメ
眠れない夜が続き、とうとう七夕がやってきた。もう何日もまともに寝ていないし、食べ物も口に入れていない。傍から見ればそうとう悲惨に衰弱している様子が映ったことだろう。だが、あんな夢を見るくらいなら寝ずに死んだ方がマシだった。蛍狩りに行く気にもなれず、独り家に引きこもっていた。本当ならば今頃、彼女と笑いあっていたはずなのに――。
慢性的な睡眠不足が続いていたせいか、夜を待たずに浅い眠りに落ちていたらしい。夢を見た。あの夢だ。
だが、ほんの少しだけ、違うところがあった。
いつもは激流の川が普段通りに静まり、澄んだ清流となって流れている。水が清らかに流れる音は耳に心地良く、あたりを蛍が舞っている。
まるで、最初に彼女と会ったときのように。
そして、彼女の姿を、再び俺は見た。
蛍の光が残像を残して流れる中、愛しく美しい彼女を。
「ありがとう」
確かに俺は彼女の透き通った声を聴いた。
「幸せでした」
「……ほたる、俺――」
俺の言葉を遮って、彼女は言う。
「また、会える?」
これが幻だったっていい。夢でもいい。俺は彼女と、川を隔てて会い、話をしている。それだけで十分だ。
俺は強く、確信を持って頷いた。
彼女は、笑って。
「また来年の七夕も――」
初めて出会ったあの日と同じことを、口にした。
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