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彼等は反逆し得るか? (kankisis) 完
 ボロカニルトム オール山地 研究所
 これでもう二日目だ……いつまでこんなことをしていなければならないんだ? マットの奴、逃げやがって。あいつはピークにこの日本人のことを伝えたのだろうか。もし伝えてくれていなければ、下手すると王国内に取り残されてしまうかもしれない。だったらなぜこんな素性のわからないような日本人の介抱なんかしようと思ったのだろう? 一度は銃を向けてきたような奴じゃないか。こいつは置いていってもいいのでは? そのまま真っ直ぐ麓のクゲスへ、いやもう、ロバースヘ向かってもいいんじゃないか?
 バニングは暫く考え込んだのち、どうせクゲスへ行くのならば今はまだ気絶している日本人も一緒に連れて行った方が良いのではと思うようになった。彼を連れて行けば遅れた理由も説明できるし、もしもマットがもう既に日本人のことを話していたとしても、どうして置いてきたのかと言われることもないだろう。
 バニングはとりあえず、若い男が目を覚ますのを待つことにした。彼の持っていた銃はウィスパーが出て行き、バニングが日本人をソファに寝かせた後、「リビング」の金属製テーブルの上に置いた。CWFが使用している銃の目録にその名称が載っていた。その銃はAK-101というイズマッシュ社製の、比較的古いタイプの自動小銃であるということがわかった。使用している弾丸は旧NATO弾で、日本のCWFが使っている他の銃とも互換性がある。
 しかしなぜ日本共和国の戦闘要員が――あんな古い武器を持っているのだろうか。こいつも訊いてみる価値がありそうだ。
 夕方近くになった。バニングが壊れてしまった転回機の様子を見て眉をひそめていると、隣の日本人を寝かせている「リビング」から、何かが動く物音が聞こえてきた。
 「リビング」に行ってみると、日本人がソファに座り込んでいた。バニングは男と向かい合って座り、共通語で話し掛けた。
「お前の名前は何て言うんだ」
「平川昭彦だ」平川と答えた男は無表情に言った。
「よし、平川、俺はジャック・ピーテル‐ギュスターヴ・バニングだ。ジャックでいい――平川、お前は日本政府の戦闘要員だな。なぜこんな所にいる? 事故でこっちに来たのか? それとも、日本政府が、あの渡邉や北沢がCWFと接点を持とうとお前をけしかけたのか?」
「唯任務をこなしていただけだ」
「どういう任務だ? それは、CWFに関係するものなのか?」
「別に関係はない」
「CWFに関係ないのなら、どうやってあっちの転回機に入ったんだ? 操作は誰がやった? そこには管理者がいた筈だ」
「転回機だと? 一体何のことだ? 管理人などいなかった」平川は呟いた。
「知らずにこっちに来たのか?」
「気付いたら機械の中に押し込まれてた。それで終わりだ、ここは何なんだ?」そう言うと平川はゆっくりと部屋の中を見回した。
 何もわからずにこっちに来たようだな。さて、何から説明してやるべきか。いや、何を説明するべきか。
「転回は知っているのか」
「知らない」
「CWFの存在条項は?」
「知らない」
「そうか……お前は唯の戦闘員か。どうして戦闘員になったんだ?」
「それは言えない」
 バニングはさっきから平川と名乗る男がテーブルの上の銃をちらちらと見ていることに気付いた。
「弾は抜いてあるからな」それを聞いた平川は顔をしかめた。「それはAK-101だろう? 何でお前がそんな古い銃を持っているんだ。日本政府はもっと良いものを支給していると聞いていたが」
「何か食べるものをくれないか」平川が問いを無視して言った。「死にそうだ」
「そうだな……こっち来い」バニングは平川のAKを手に取って「リビング」を出た。
 「リビング」を挟んで転回室の反対側にある棟へと、バニングは平川を連れて行った。連絡通路の突き当たりにある重い両開きの扉を片方だけ開き、先に平川を中に入らせた。扉がひどく軋んだ。後から入ったバニングは口を開いた。
「ここはこの研究所の居住区だ。もうだいぶ使われていない。ほら、埃が溜まっているだろう。ここには俺しかいないからな」バニングは居住区に入ってすぐ右側にあるドアを指した。「そうだな……このピークの部屋でいいだろうよ。ピークにはあんたも会うことになるだろうな」
 バニングは片方の手で持っていた缶詰を部屋に入った平川に渡した。平川が掻き込んでいる間、バニングは部屋の壁に嵌め込まれた円い窓の外を眺めた。しかし鬱蒼と生い茂っている植物が邪魔でほとんど何も見えなかった。
そのとき、ふいに平川が問いを発した。「あいつ……マット、マットがいなかったか?」
 バニングは驚いた。こいつはマットを知っているのか? 「マット・ウィスパーのことか?」
「そうだ」平川は目を光らせた。缶詰を持った指と頬が、ひどく引きつっていた。
 バニングはマットの言葉を思い起こした――「不思議なこともあるもんだな」
「あいつはお前のことを知っていたのか?」
「昔の同僚だ」平川の表情がより一層険しくなっていった。
 そういえばマットは以前日本にいたことがあると言っていたな。
「どうした? マットとは何かあったのか」平川の様子を見てバニングは訊ねた。
「いや、何もない」平川は唯こう答えた。
「平川、お前を元の場所に戻すにはあんたが出てきた機械をもう一度使わなければならない。でもな、お前には教えるが、あれはもう壊れてしまったんだ。修理用の部品もない。わかるか? だから――」バニングは続けた。「――我々の輸送船で、正常に動く転送機のある場所まで行かなければならない。そのためにはここよりももっと北側にある港へ行って、船に乗らなければならない。な? 出発は今日の夜中だ。俺はまだまとめる荷物があるからここで待ってろ。準備が出来たら呼びに行く」
「わかった」平川が言った。
 バニングは外にある食糧庫からもう一人分の食糧を取り出した。布の袋に詰め終わり、担ぎ上げたそのとき、急に激しい雨が降り出した。
 バニングは大声で「馬鹿を言うな、行かれるもんか。今そんなに虚勢を張っている程、未練を断ち切るのはたやすいことじゃないんだぞ」と悪態をつくと、研究所の建物へ走って行った。

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