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彼等は反逆し得るか? (kankisis) 完
 ケニムヴェルセス オース エルス城
「……流れが、それを求めているんです。こうなるのは必然です。ワスロル長老は同じような事を言っていましたが、実質は全く異なります。……自分は、村でゲヌズと言う特別な役割を与えられ、」ナニウォスは自分の首を指差した。「印を与えられました。それで命が助かりました。ゲヌズとは村を護る仕事です……しかし、自分は村を護れませんでした。その代わりに、村に護られました。何か意味があります……多分、これですね」
 彼らは門を通り抜けた。
「フェデの組が衛兵を引きつけている間に俺達とラデルの組が国王を殺す……逃げるなよ」
「そんなことしませんよ」
 二人は煉瓦造りの倉庫のような建物に入った。中は忙しそうな役人達で混んでいた。奥の小さな扉に向かってゆっくりと歩きながらカラッコズーフが言った。「作業棟だ……思ったより広いな」彼らは扉の横に立った。向かい側には、更に予備の実行班二人が待機していた。
 暫く立っていると、不意にどこかから揺れと共に爆音が聞こえて来た。「この建物が崩れるなんて事はないよな」そう言って作業棟がざわめく中、カラッコズーフは扉の奥へと入り込んだ。ナニウォスもそれに続いた。
「国王専用の通路だ。緊急時用の……」カラッコズーフは脇に掛けてあったランプを手に取り、明かりを点けた。足下には暗く湿った空間が口を開けていた。「この通路はエニア湖の湖岸に通じている。もちろん他の緊急用通路とも合流している。きっと国王ご一行はこの通路のどれかを使って逃げようとする筈だ。ラデルの組がご一行を後ろから追って、俺達が挟み撃ちにするんだ」二人は石の階段を降りた。「……そろそろ……そうだ、ここだ……ラデルはまだか。準備はいいな」
「ええ」
 通路の壁の窪みに身を寄せ、二人は待った。カラッコズーフは明かりを消した。
 複数人の声が先の方から響いて来た。「来たな……どうだ、ナニウォス、見えるか」
「見えます……八人います……走ってますね」
「よし、出るぞ」
 二人は一行の前に姿を現した。ナニウォスは数日前に渡された銃を、カラッコズーフは短剣を構えていた。
「衛兵を……これ位の犠牲なら」
「頼む」
 ナニウォスは銃の引き金を引いた。
 しかし、邪魔が入った。


 ギルナは特にする事もなく城の中をうろついていた。第二事務棟の横を通り過ぎようとした時、後ろで大きな音がした。振り向くと、建物が崩れかけていた。
「ディヴァン!」ギルナはディヴァンを見つけ叫んだ。「何があった!」
「わからない! 二人役人が何かを投げて逃げて行ったんだ、そしたらこれだ!」
「ディヴァン、衛兵を集めろ。役人達に近づかせるな、それと、国王が危ないかもしれない、怪しい事がなかったか調べろ」
「わかった」
 ギルナは数人の衛兵を呼び集めた。「とりあえず城内居住区に向かう。国王を保護しなければならない」
「ギルナ、作業棟でペスクト・チェラルブホコフ外交官が見慣れない人を数人見掛けたらしい」
「そうか……ハクスとエルセワは居住区で国王の元へ行くんだ。俺達は作業棟へ」
 作業棟では待っているように言われたペスクト・チェラルブホコフ以外は誰もいなかった。
「ペスクト・チェラルブホコフか?」
「そうです」
「怪しい人物を見たと?」
「ええ……この区画はいつも同じような人しか使わないのですぐに違和感を覚えました……この区画、外部対応部しか使わないんですよ」
「何人いた?」
「四人です、爆発の後二人はこの扉から先に入りました……後の二人は皆が作業棟から出て行くのを見て、急いで先の二人を追って行きました」
「よし、四人を追おう。ペスクト、行って良いぞ」
 衛兵達は扉を開けた。「緊急用通路か……明かりは?」掛けてある筈のランプがないのを見たギルナが言った。「ペスクト・チェラルブホコフ! まだいるか?」返事が聞こえた。「明かりをくれ!」すぐに代わりのランプが差し出された。
 ギルナは先へと進んだ。「国王はあの通路を使う筈だ……襲うのなら……この道だ」
 ギルナはゆっくりと、通路の先を窺っている二人の男に近づいた。「動くな」二人は驚いたようだった。「動けないようにしておけ」
 二人衛兵を置いてギルナは更に先へと進んだ。ハクスとエルセワの二人はちゃんと国王を守れているだろうか……。
 前方に光が見えた。国王達がこちらへ向かって来ているようだった。「急ごう」その時、脇に隠れていた二人が姿を見せた。「急げ!」
 ギルナは走りながら違和感を覚えていた。あの影は……。
 片方の若い男が銃を、国王を守る衛兵に向けた。
 衛兵の一人がナイフを投げた。若い男は倒れた。銃弾がハクスの肩をかすめた。もう一人の男が短剣を持って襲いかかってきたが、敢えなく取り押さえられた。
 ギルナは突然無力感を覚えた。

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あきゅろす。
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