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彼等は反逆し得るか? (kankisis) 完
 トルカセニレ島 トルカゾール コルト
 フォルザイルは夜の灯台にいた。昨日、十月七日に、フォルザイルは仕事をジルカと交替した。ここ数日、フォルザイルは〈戦い〉を共にする人物を集めていた。ジルカを含めて灯台の見張りばかりとりあえず九人集まった。
「本当に、何にも、小舟一つ、通りませんね」フォルザイルの隣にいるマルネッヘが言った。「どうするんですか、帝国軍と戦うって言っても、向こうからは来やしませんよ」
「ならこっちから行くまでだ」フォルザイルは返した。
「どうやって行くんですか」
「ジルカがトスキールと取引をしている北洋貿易連盟の商人を知っているそうだ。彼に頼み込んで密航させてもらう」
 フォルザイルは前方に集中した。この時期には珍しく視界に霧がかかっていた。灯台の放つ光は霧の奥深くに吸い込まれていった。コルトの町は昼は暑くなったが、夜は特に冷え込んだ。町の周囲の特異な地形がそうさせるのだと、学者ぶった男共が演説をしているのをフォルザイルは酒場で聞いた事があったが、酒場の酔っ払い達は一切の関心を彼らに向けていなかった。そのような事さえも、今では遠い昔の微かな記憶といった印象でしかフォルザイルは思い出す事はなくなっていた。この数日は幾つもの物事の数多くの羅列でしかなかった。しかしそれは、唯の事実というよりは、大いなる幻想といった方が適切な気がした。
「そろそろ交替ですね、起こして来ましょうか?」声が突然降り掛かり、思考を中断した。マルネッヘだった。「そうか、なら頼む」
 マルネッヘが去った後も、フォルザイルは律儀に霧以外何も見えない前方を見つめていた。少しすると、交替要員が階段を上ってくる音が聞こえて来た。ルクフォーアとリブレスがフォルザイルの肩をそれぞれに軽く叩いて持ち場に着いた。フォルザイルは数時間前に上ってきた階段を今度は下りた。
 一方ルクフォーアは、さっきまでフォルザイルが立っていた丁度その位置に座った。
「何だ、何も見えないじゃないか」リブレスが言った。「あいつら、こんな霧なのにずっと見張りをしてたのかよ」
ルクフォーアは言った。「それが仕事だろ」


 次の日も、フォルザイルは灯台にいた。マルネッヘが隣にいた。夜の霧はまたもや眼前に広がる大海を覆い隠してしまっていた。
「でも、何でこんな仕事だけで食べていけるだけの賃金が支払われているんでしょうね」マルネッヘが呟いた。「知るか……お前だってその金で食ってるんだ、気にしちゃ駄目だ」
「もっと、他にまわしてもいいんじゃないですかね」
「例えば?」
「それは……トルカと協定を結ぶとか……」
「俺達十人が同時にここを辞めれば、役場もこの仕事がどんなに意味のないものかわかるだろうよ」
「いつ頃コルトを出発するんですか?」
「今ジルカが例の商人の予定を聞き出そうとしているんだ。あいつが出発の日を決める」
「そうですか」
 フォルザイルは夜中の今すぐにでもゾール港へと向かいたい気分だった。過去に関する何かが彼を駆り立てるのだった。見当もつかないようなものが彼を遠くから呼んでいる、そういった気分になっていた。
「そろそろ交替ですね、起こして来ましょうか?」マルネッヘが言った。
「そうか、なら頼む」
 フォルザイルは町の方を眺めた。一切の明かりはなく、町は大きな暗闇に飲み込まれたようだった。あの家はどの辺りだっただろうか……。
 ルクフォーアとリブレスが上がってきた。フォルザイルは仮眠をとりに下へ下りた。
薄暗い大部屋に入ると、フォルザイルは半ば手探りで奥へと進んだ。明かりはジェネラルポーンをしている二人を柔らかく照らしていた。「おいマラート、寝なくていいのか」
マラートは駒を一つ進めた。「別に」
「その手があったか!」相手をしているシスシャが小声で叫んだ。「お前上手すぎるよ」


 次の日も、フォルザイルは灯台にいた。霧は晴れる事を知らないようだった。
「望遠鏡があればいいんですけどね」マルネッヘが言った。
「何だ、それは」
「知らないんですか……手に持てる位の、これぐらいの筒で、」マルネッヘは両手で望遠鏡を持つ格好をした。「覗くと遠くがよく見えるんですよ」
「ふん、そうか」
「……起こしてきますね」
「頼む」
 マルネッヘは階段を下りかけたが、下から誰かが駆け上がってくる音がして立ち止まった。ルクフォーアだった。「ジルカだ! あいつめ、やっと聞き出してきやがった!」
「今どこにいる」
「下だよ! 大部屋! みんないるよ」
「マルネッヘ、行くぞ」
 下の大部屋では皆がフォルザイルを待っていた。
「ジルカ、遅かったな、どうした」
「ああ……組合が意外に頑なだったものでね……それで、今出発して間に合う次の出航は、十一月の九日だそうだ。どうするんだ、フォルザイル?」
「十四日にコルトを出よう。必要な手続きをそれまでにする。戸籍を取り消して傭兵の登録をして、それから出発だ。傭兵の登録をしておかないとトスキールに渡る時に色々と厄介だ」
「ここはいつ辞める?」マラートが訊ねた。
「今すぐに」
 十人は外に出た。大部屋に紙が一枚残されていた。
「フォルザイル・メルデ・ワテリア、マルネッヘ・ファラム、ルクフォーア・ラウル、リブレス・ネルデウ、マラート・アウルズ、シスシャ・リフヴァン、ジルカ・デルテウ・カムエン、ケウェレグ・サフヴァン、グリオルト・サン、イールドク・セルマは、与えられた役目を果たす為に、与えられた役目を去る。神暦千九年十月十日二十三時を以て我々灯台の見張り十人は結ばれた契約を破棄する。」
 町へ戻った十人はギャムディ亭へと直行した。
「おい! ギャムディ・ジャグ!」
 地下から声が上がって来た。「何だ! 誰だ! 役人か?」
「フォルザイルだ! 部屋空いてるか?」
「……ああ、何だフォルザイルか。ちょっと待て、今行く」
 ギャムディは驚いた目をした。まさか十人もいるとは思っていなかったという目だった。「おい、そんなにいるのか」
「そうだ」フォルザイルは言った。
「そうだ、てなあ――いきなりその人数で、しかも真夜中に来てそれだけかよ――何日間だ」
「十四日には引き揚げる」
「ふん……そうか、部屋は空いてるが……」
「三ヶ月後に支払いは済ませるよ」
「待てよ、何でそんな後なんだ」
「こっちは十人だぞ」
「……ふん、……そうか、仕方ないな」
「どの部屋が空いてるんだ」
「三番から五番だ!」ギャムディは口惜しげな声を上げた。

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