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彼等は反逆し得るか? (kankisis) 完
〈ヒメネーメネル〉
 ある時ある所にある人がいました。彼の名前はピメーネルといいました。ピメーネルの家の隣にはビネーメルという人が住んでいました。彼ら二人は互いに仲が良く、村の中でもよく他の人に、とても親切にされていました。
 さて、ビネーメルはある日、自分の大切にしている家畜に食べさせるための草が十分に生えている土地を新たに探しに村を出ました。その間ピメーネルは畑を広げるために、とある人に譲ってもらった土地を耕していました。
 ビネーメルは三日間西へ向かって歩き続けました。しかし、行けども行けども家畜の食べる草は生えていませんでした。あるのは乾いた白い土と、まばらに生えた茶色の苔だけでした。
 ビネーメルはあきらめました。村に戻って今度は北に行ってみようと思いました。そのときふいに誰かが北の方には良い土地があるという噂をしていたことを思い出しました。ビネーメルは西の方をじっと見つめて、そして元来た方角へ引き返そうとしました。そのときビネーメルは足下の何かくすんだ光を放つものに目を奪われました。すると放たれていた光は音を立てて消え去ってしまいました。立ち止まってそれに顔を向けながらビネーメルは何だろうと思い、腰を低く屈めて拾い上げるととりあえずそれを革の袋に入れました。そしてそのまま村へ戻りました。
 村ではピメーネルがビネーメルの帰りを今か今かと待っていました。土地は二週間ですっかり耕され、種も蒔かれていました。ビネーメルの家畜の番は友達が任されていました。ビネーメルは疲れた様子で帰ってきました。良い土地は見つかったかとピメーネルが訊くと、駄目だったという答えが返って来ました。ビネーメルはその日はそのまま自分の家にいました。
 次の日、ピメーネルが探索の話を聞きにビネーメルの家を訪ねると、ビネーメルはじっと床に座り込んで、瞼を閉じていました。ピメーネルが部屋へ入って来たことにも気付いていないようでした。唯何事かをぶつぶつと呟いているだけでした。
 ピメーネルは少しだけ怖くなってそのまま気付かれないように部屋を出ました。部屋の外にもビネーメルの呟く声が聞こえて来ていました。その日は諦めることにしました。
 次の日、ビネーメルは家の外でピメーネルが来るのを待っていました。朝起きて真っ直ぐビネーメルの家に向かおうと家を出たピメーネルはすぐにビネーメルに気付きました。近づいて声を掛けると、ビネーメルは、やあ、ピメーネル、おはよう、と言いました。
 ビネーメルは先に家の中に入ろうとしましたが、入り口の所でつまずいてしまいました。しかしどうにかして持ちこたえ、先に家の中に入っていきました。ピメーネルは恐る恐るビネーメルに続きました。話をしている間、ピメーネルはビネーメルが何やらそわそわしているということに気付きました。どうやら、ビネーメルは部屋の隅の方に追いやられたように他の色々な細々とした物に埋もれてしまっている煤けた茶色い袋を気にしているようでした。
 ピメーネルはそれとなく話をその袋に向けようとしました。しかし何かいけないことのようで話を切り出す勇気が全く出ませんでした。そのとき、ビネーメルがどうしたんだい? 妙にそわそわしているじゃないか、と言いました。いや、何でもないよ、とピメーネルが言葉を返すと、ビネーメルが不思議そうに首を傾げました。何もなかったかのようにビネーメルの話は続きました。
 袋のことは気のせいだったかとピメーネルが思い始めた頃、またビネーメルがそわそわしだしました。今度は絶対気のせいではないという自信がありました。どうしてそんなにそわそわしているんだ、とピメーネルが訊くと、ビネーメルはいや、別にそんなことはないよ、という返答をしました。ピメーネルは不審に思いつつも、話を終えて自分の家に戻りました。
 その夜、ピメーネルは茶色い汚れた袋のことが頭からどうしても離れず、なかなか寝つけませんでした。どうしても、あの袋の中身が気になって仕方がなかったのです。床について二時間後、いてもたってもいられなくなり、ピメーネルはもう一度ビネーメルの家に行ってみようと思いました。勢いよく起き上がると、ピメーネルは自分の家を飛び出して隣の家に入りました。なぜか戸締まりはされていませんでした。
 音を立てないようにしながら寝室を覗き見ると、ビネーメルが扉に自分の丸まった背を向けて、手に持った何かをさも愛おしそうに撫でていました。息を潜めてじっとそれを眺めていると、ふいにビネーメルが体をびくりと震わせて急に声を上げて激しく泣き出しました。暫く泣きはらした後、その何かを震える手でそっと袋にしまい、ビネーメルは体を床に直接横たえて眠り込んでしまいました。その間ピメーネルは何もせずに唯眺めていました。
 ビネーメルが寝付いて暫くまってから、ピメーネルは部屋をゆっくりと出ました。しかしビネーメルの家の前で、少し思案している様子でピメーネルはふと立ち止まりました。そして彼は何かを決心したかのように、くるりとその向きを変え、ビネーメルの家の中に引き返しました。
 また部屋に戻ると、さっきと変わらない姿勢で寝ているビネーメルを起こさないようについ先程見た茶色い革の袋を探し始めました。袋はすぐに見つかりました。ビネーメルの頭から少しだけ離れた場所にあった袋をさっと奪い上げたピメーネルは、袋の中身を確認するために口を開けようとしました。その瞬間、ビネーメルが苦しそうに唸り声を上げながら寝返りを打ちました。ピメーネルははっとして振り返りました。
 息の詰まるような数秒が経った後、ピメーネルは固まった体を無理に動かし、音を立てないようにして部屋を出ました。ピメーネルはもう我慢できずに、袋の口を開けてしまいました。中に入っていたものをわし掴みにすると、ピメーネルは袋を捨てて走り出しました。急いで自分の家に戻ると、ピメーネルは袋から取り出したものをきつく握りしめたまま眠り込んでしまいました。
 次の日の早朝、誰かの叫び声でピメーネルははっと目を覚ましました。表に出ると、ビネーメルが玄関口に、戸に挟まれるようにしてぐったりと倒れていました。その真っ黒な目はどこも見てはいませんでした。
 ピメーネルは心臓がゆっくりと、重々しく自分の胸を打ち続けているのを感じました。両手に違和感を覚えたピメーネルは顔をこわばらせて家に戻りました。そしてそのまま部屋に籠もっていました。ふと気付くと、ピメーネルは昨日の夜ビネーメルの部屋から持ち出した、茶色の袋に入っていたものを眺めていました。
 彼は幸せそうな笑みを浮かべて、それを拾い上げようとしました。しかし手を伸ばしかけた瞬間、背中に恐ろしい程の寒気を感じてその手を引っ込めました。だんだんと彼は惨めになって、涙を流し始めました。暫く泣くと、涙が涸れてしまいました。それでも彼は泣き続けました。彼は戦利品を壊してやりたいと思いました。でも何も出来ませんでした。そして彼は寝込んでしまいました。
 一週間後、彼は無理に体を起き上がらせ、袋に入っていたものを窓の外から投げ捨てようとしました。しかしどうしても手が震えて持ち上げられませんでした。彼は必死にそれを口にくわえて窓に向かって放り投げました。すると、それは素直に窓の外へ出て行きました。ピメーネルは窓の外を見やりました。窓を通してビネーメルの顔がこっちを睨んでいました。ピメーネルはビネーメルから顔を無理やり背けると、床にいきなり倒れ込みました。ピメーネルは両手がひどく震えるのを感じました。ピメーネルはすぐに家から飛び出し、窓の外に打ち捨てられていたものを、ビネーメルの方を見ないようにしながら拾い上げました。
 それを強く抱き抱えると、体の震えが落ち着いて来ました。しかしもうどうにもならないということを、彼は知りました。空を仰ぎ見ると、分厚い雲が雨と雷を抱えてにじり寄って来るのがわかりました。
 ようやく真上まで辿り着いた雲が雨を降らせ、何もかも洗い流してしまいました。

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