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彼等は反逆し得るか? (kankisis) 完
 トルカセニレ島 トルカゾール コルト
 ギャムディ亭は普段と変わらない様子だった。ギャムディの立ち位置から埃の積もり具合まで、何から何まで普段通りだった。ギャムディには目もくれず、テーブルの埃をさっと払い、フォルザイルは待った。
 "あの男"はずっと、フォルザイルが現れる前から、端から三番目の席に座っていた。その口はかすかに笑っているようにも見えた。唯、目は凍っていた。皺のない手は注意して見ると震えていたが、その震えは僅かなものだった。白髪が増えたようにも、減ったようにも感じられる。手に呼応して揺れていた。首はほんの少し、どこかから聞こえてくる音を聴くかのように傾き、腱が張りつめていた。時々さも意味無さげに瞬きをし、そしていつものように、昔からこうしていたんだとばかりに、酒をすすっていた。その音はいつもよりかすれているようだった。
 暫く待ったが、"あの男"は動かなかった。退屈している風であったギャムディが、フォルザイルと何か話をしようとして近づいて来た。が、フォルザイルは席を立ち、わざとギャムディから遠い所に移動するのだった。何度も同じことを繰り返しているとあきらめたらしくまたいつもの所に戻った。
 酔い潰れてテーブルに突っ伏している男以外誰もいなくなった頃、"あの男"がふと席を立った。フォルザイルもそっと後に続いた。ギャムディは眠たげな目を上げただけで、無反応だった。
 外に出た。"あの男"は唯歩くだけで、その他は何も考えていないようだった。唯どこかへ行き着くことしか考えていないようだった。町の外れまで行くと、彼はとある民家へ入った。意外なようにも思えた。
 暫く家の前で立ち尽くしたフォルザイルはふと我に返り、戸の取っ手に手をかけた。


 家の中は薄暗く、ごちゃごちゃしていた。"あの男"のいるであろう部屋の見当をつけ、思い切って入った。"あの男"は奥の壁に背を向け、剥き出しの床に直に座り込んでいた。こちらをじっと凝視していた。
 自ら感じた戦慄におののき、汗が体中から吹き出るのを感じた。早く問わなければという焦りで思考が停滞し、言葉は言葉にならなかった。答えはと口にするだけで精一杯だった。
 "あの男"は無言を貫いた。埃が舞っていた。永遠かと思われる程の重苦しい沈黙が部屋の中に充満した。どのようにも受け取ることのできる表情は見る者を困惑させた。ふと思い出したように何かを背後から引きずり出した。
 唇を引き攣らせ、答えを待たず逃げるようにして家を出た。


 フォルザイルは道端に倒れ込んだ。家が威圧的な雰囲気を持って暗闇に覆い被さっていた。よく見るとその家には窓が無かった。不自然には思わなかった。ふらふらと引き寄せられるようにフォルザイルは再び家に入った。


 灯の灯った廊下を進み、"あの男"のいた部屋に戻った。"あの男"はいなかった。かわりに、横長の楕円形のような物体が床に無造作に転がっていた。"あの男"を探しに部屋を出ようかと思ったが、物体の持つ妙な雰囲気に惹き付けられ引き返した。よく見るとそれはどうやら透かし彫りのされた盾のようだった。恐る恐る手に取ってみた。ずっしりと重い量感を湛えたそれは何か知らないもので出来ているようだった。木でもなく金属でもないもので出来たそれの裏には、紋章のようなものが鋭く刻み込まれていた。紋章の溝になった部分には茶色い乾いた汚れが詰まっていた。暫くそれを指でゆっくりとなぞっていたが、隣の部屋から聞こえる微かな音に気付き、急いで部屋を出た。盾が廊下の壁にぶつかって大きく籠った、木質の音を三度響かせた。


 家を出ると、フォルザイルは初めて後ろを振り返った。すると、家の中から何かが潰れる音がした。フォルザイルは厳粛な心持ちでその音をしっかりと記憶に留めた。

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あきゅろす。
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