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マグの足跡(千葉)完
めがみ
「いやーしかし、死ぬかと思った…ホントありがとうございます」
「なぁに、こっちだってこれで最初にヘバっちまってすまんかったな。
まぁこれで暫くはドリラーも出てこないだろう」
「だといいですね」
疲れた二人はとりあえず目についた切り株に腰を下ろし、体を休めていた。
ドリラーと赤トサカのいないドリラーの巣は静かだ。
涼しげな風が頬を撫でる。
「で、これからどうするんだ、あんたは」
「もちろんクラーユを目指すまでさ」
「クラーユねぇ。そこまで行って何すんだ?」
『使命を果たしてもらうのです』
「…? 今、何か聞こえませんでした?」
「ああ俺にも聞こえたが」
女の声だ。
『ちょっと待っていて下さい』
そう声が聞こえたかと思うと、一瞬強烈な光が辺りを支配した。
思わず目をつぶった。瞼越しに眩い光が伝わってくる。
「………!?」
暫く経って目を開くと、目の前には見ず知らずの蒼い髪の女がいた。
まて、こいつ、人間か? よく見ると白い翼が背中に生えている。あぁ天使なんだ。
…んな訳はないか。じゃあモンスターか。
『私は女神です』
「め…めがみ?」
……、この国どうなってんだ? 結構凄いものを見ている気がするんだが…。
チーノはポカーンと口を開いたままだ。女神と名乗る女の長い髪は、風に揺られてなびいている。
『あなたですね、王女を助けると誓った青年は』
「いや、そんな大々的に言った覚えないんだけど……というか何で知ってるの」
『女神だから』
「あ、っそ…」
『………、王女を助けるとなると…即ち、ヤマテノに立ち向かうということになりますね』
「あぁ、ヤマテノって赤トサカが言ってた…やっぱりそいつなのか、大本の犯人は」
『そうですとも』
女神の混じりけの無い藍色の瞳が、こちらに向けられていることに今更ながら気付く。
何故かどきっとした。
『先程の戦いを見させてもらいました。…あなた一人では、やはり………』
「無理ってか?」
『いえ…しかし、ヤマテノは果て無き力を持つ魔物。……不安なのです』
「でも、チーノのおっさんを連れてく訳にもいかないし…なぁ、そうだろ、チーノさん」
「あ、あぁ…スマンが俺はちょっと手伝えそうに無い…。
そもそもあんたがそんな凄いことやろうとしてるなんて、知らなかったよ」
『じゃあ、やはりあなた一人で…他に仲間を探す気はないのですか?』
「…無いよ。面倒」
面倒だし、あの頼りなさそうな王子と約束した報酬はやはり独り占めしたい。それに…。
『そうですか……。では、最後に一つお訊きます。
最後まで戦う勇気は、ありますか?』
「無かったら、こんなことしないわな」
とりあえず言い切ってやった。
実際そんな自信があるのかどうかは自分でも分からないが。
『フフ、分かりました。では案内しましょう』
「案内? どこへだ? …まさか」
『クラーユです』
期待通りの答えだった。…でも、そんなにすんなりと行けるものなのか?
『ただ、ヤマテノの傍までは無理ですが…。私も、奴の魔力だけは苦手なのです…』
「いいよ、ショートカットできるんなら」
『では、お送りしましょう。私の手に触れてください』
「ちょ、ちょっともう行くのかよ」
『急いだ方が良いと、あなたも知っているはずです』
「分かったよ…」
マグはチーノの方を向いた。
「ニクとか、色々ありがとうございました」
「すまんな、手伝えなくて。いや、勇気が無くて、か」
「気にしないでいいですよ。俺は一人で行く」
「……まぁ、元気でやれや」
そう言うと、チーノは腰の袋から何かを取り出した。
「ホシニクだ。持ってけ」
「さ、三枚も貰っちゃっていいんですか」
「ああ。腹が空いたら、これを食っとけ」
「…どうも。ありがたく受け取っておきます」
『フフ。さて、それでは…行きましょう』
女神が手を差し出す。
「あ、ああ。じゃ、さよなら、チーノのおっさん」
「じゃあな。死ぬなよ」
「もちろん。…じゃ、頼むよ、女神様」
マグは女神の手を握った。
『かつての有楽の地、クラーユに…いざなうべし!』
女神がその言葉を放ったその瞬間、風が全身を包みこんだ。
チーノの姿が、いや森全体が薄れてゆく。
ただひたすら、白い。

自然と閉じていた瞼の向こうに、今までとは違う光を感じた。目を開く。
『着きました…クラーユです』
「は、ははっ…どうも…ありがとう」
辺りを見回すと、荒れ果てた褐色の大地がひたすら広がっている。
前方には若干の上り坂も見受けられる。
「すげーな、本当に瞬間移動したぞ…ここ、ホントにクラーユでいいんだよな?」
『ええ。嘘はつきませんよ。この坂をずっと行けば、そこにヤマテノがいるはずです』
マグは地図を取り出した。
地図上の情報と、今自分がいると思われる場所を必死で照らし合わせる。
『…この地図だと、このあたりじゃないでしょうか』
女神が指さした。クラーユの山の真南の麓だ。
「へぇ。何だか随分あっさり着いちまったな」
『そうだ。最後にお願いがあるのですが』
「何?」
『ヤマテノを、倒して下さい』
「…そいつ、ほっぽっといたら相当まずいの?」
『奴は元々存在し得ない魔物でした。しかし…』
「しかし?」
『解明不可能な強力な力によって…丁度一年前でしょうか、創り出されてしまったのです』
「何かよく分かんねぇなぁ」
『あなたをここまで送ったのには、王女を助けて欲しいこともありますが、
ヤマテノをこの国から消してもらいたいという理由もあります…
少々強引に頼む形となってしまい、申し訳ないのですが』
「いいよ別に、ことのついでだし。できるかどうかは知らないけどな」
『すみません』
俯き、女神は謝罪の言葉を呟いた。
「気にすんなって。…それじゃ、俺はもう行くよ」
地図を腰の布袋にしまい、一歩前に踏み出す。
『お気をつけて』
女神は微笑んだ。マグは頷いた。

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