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マグの足跡(千葉)完
STAGE2-2 ロジメル:ドリラーのもり
翌朝。
「おいっ起きろ! もうすぐ出発する時間だぞ!」
「むにゃむにゃ…」
マグが目を開け部屋の時計に目をやると、時計の針は六時を指していた。
「……チーノさん、やっぱりもうちょっと寝てから行きましょうよ」
「ダメだ。奴らが眠っているうちに叩かないと。というか昨日六時過ぎには行くって約束しただろ」
「はーい…」
目覚めは最悪だった。ったく人の貴重な睡眠時間を…。
まぁ仕方ないか。
今回マグ達が目指すドリラーの巣がある森は、その家の裏のすぐ傍にあった。
支度をし、二人は家を発った。
道を行くにつれ、段々と木々の背丈が大きくなっていく。
あたりは、早朝とはいえいやに暗い気がする。
気のせいか。
二人はどんどん森の奥へと進んでいった。
「ずいぶん大変な所にいるんですね、ドリラーとかいうやつらは………ん?」
見慣れない生物が右の方にいるのが、ふと目に入った。
「何です、あの頭が丸い黄緑の恐竜みたいなのは」
「あれはサウルスってんだよ。あれもモンスターだ。
まぁ近づかなけりゃ無害だ。あ、大きな音は立てるなよ、気付かれる」
「はいはい」
なんかあの恐竜、頭がツルツルしてる。
「ところでドリラーの巣にあとどれぐらいで着くんですか? 結構歩いたと思うんですけど」
「そうだな…あと三十分ぐらいか? 正直巣に関しては直接見た事無いから良くわからんな。
あ、でも方向は確かにこっちで合ってるぞ。数少ない猟師仲間から仕入れた情報…ん?」
ガサガサッ…
「げっ!?」
『おはようございマース!』
目の前にいきなり現われたのは、全身真水色の鳥人間、…ドリラーだった。
黄色のクチバシがいやにギラギラしている。
パン! 一瞬の沈黙の後すぐに銃声が響く。
ドリラーは霧となり、消えていった。チーノは銃口を下ろした。
「よし、仕留めた」
「あ…あれがドリラーですか」
「あれ、意外と驚かないんだな。あ、モンスター自体は見たことあんのか」
「ええまあ一応」
モンスターに本来実体は無いことも、マグは知っていた。
初めて旅した地で、いきなりでかいモンスターに出くわした時は死ぬかと思ったものだが。
「ところでちょっと待って下さい。何かもの凄い殺気を感じるんですけど」
「殺気?」
「ほら、後ろから…」
「後ろ…ってうわっ!?」
二人が振り向くとそこにはサウルスの大群がいた。
数十匹はいるのではないだろうか。
「よし逃げよっと」
マグがすぐさま走り出した。
「あ! ちょっと待て!!」
チーノも後を追うように走り出す。そしてもちろん、サウルス達も後を追いかける。
『キシャァーッ』
「嫌な声出しやがってトカゲどもっ」
「ったく銃なんて撃つから、大きな音は厳禁だったんじゃないのっ」
「うるせぇ仕方ねぇだろ!」
息を切らしつつも死ぬ気で走った。
そこら辺に転がっている石は蹴散らし。道を這う木の根は飛び越え…。
「………振り切れたか」
サウルスの威嚇するあの声が聞こえなくなったのを確認して、
マグが後ろを振り返ると、サウルスの大群はもういなかった。
「逃げ切れたどころか、巣に着いたぞ」
「はやっ!」
「しっ、静かに…あれを見てみろ」
マグはチーノが指した方向を見た。目の前の大樹の陰に、足跡がある。
無論、自分達のものではない。
「あれは…ドリラーの足跡だ。野郎どもは、この先にいるんだ。いいか、いくぞ」
「ほーい」
「静かにな」
抜き足、差し足、でその足跡を辿っていく。
道ならぬ道、獣道を進んでいくと急に道が拓けた。
「うわっ」
目の前の異様な光景にマグは思わず声をあげた。
五、六匹…いや十匹はいるであろうか、ドリラーが草の上に寝っころがって眠っている。
目を覚ましているものはいないようだが。
「よーし、やっと着いたか」
チーノが呟くように言い、笑みを浮かべる。
「…で、どうすんの…いやどうするんです?」
「もちろん、こいつで撃ち抜いてくだけさ」
そう言うとチーノは狩猟銃を構えた。
「一発目の銃声で奴らは確実に起きる。その時のフォローは任せたぞ」
「ちぇっ、肉弾戦要員か、俺は」
不平を言いつつマグは身構えた。
「じゃあいくぞ」
『そこまでダ!』
「!?」
妙に甲高い声が後ろ、いや上の方から耳をつんざいた。
「誰だ!?」
マグはあたりを見回すが寝ているドリラー以外に影は見当たらない。
「ちっ!」
パァン、という銃声が鳴り響いた。チーノが上に向かって発砲したのだ。
『残念、ハズレ』
「何ッ…!? …うッ!?」
「!? チーノのおっさん!?」
チーノの方を見ると既にチーノは地面に突っ伏していた。銃が無い。
『銃はもらっタ』
「!!」
声の聞こえた方に目をやると、背丈は二メートル以上ある、
がたいのいいドリラーが銃をこちらに向けて立っていた。赤いトサカつき。
水色の肌を対照的で、色がよく映えている。
『オイ、野郎ども、起きロ!』
『……なんですかぁ〜ボスゥ〜…』
『馬鹿ヤロー、もうヤツが目の前に来てんだゾ!!
しかも見張り番してたアイツは殺されたんダ!!』
赤トサカのドリラーの怒鳴り声で、さっきまで鼻提灯を膨らませて
寝ていたドリラー達がぽつぽつと目を覚まし始めた。
「なんだ? 俺に用でもあんのか?」
『ありありダ!』
「ハァ?」
マグはそう返すしかなかった。
身に覚えは無いんだが…少なくともこいつらに対しては。
「なんだよ、その用って」
『キサマだロ。ヤマテノ様の計画をジャマしようという愚か者ハ!』
「…あのー、何のこと? それにヤマテノって誰…」
『とぼけても無駄ダ! 王女を取り戻そうなどという馬鹿げた考えはサッサと捨てるんだナ』
「!? ………お前らまさか…」
そうだ、そうだよな。王女をさらった奴は魔物だと聞いていたが…。
ヤマテノとかいうやつが首謀者で、こいつらはその手下…ってとこか?
「…まぁ、どの道倒さないといけないんだろうけど」
『フン、人間フゼイが調子に乗るなヨ』
「仕方ねぇ、行くぞ!」
『死ネ!』
マグが駆け出すと同時に赤トサカがこちらに向かって発砲した。体に違和感はない。
「残念ハズレ!」
『おめぇらフォローしロ!!』
『イエッサー!』
「ちっ!」
周りから飛びかかってきたドリラーを縦にかわす。
『スキあリ!』
赤トサカが銃を再び構えたのが見えた。
「させるか!」
すぐさま赤トサカの顔面目掛けて拳をぶつける。銃が地面に落ちる音が聞こえた。
「もういっちょ!」
『図に乗るナ!!』
マグのパンチを左手で受け止めると、すぐさま右手を繰り出す。
「あぶねっ」
間一髪横に避けた。
『今ダ!!』
後ろから声がした。
振り返ると何本かの茶色い棍棒が目に入った。こいつらいつの間にこんなモノ―――
「っっとぉ!!」
右腕と左腕にそれぞれ一、二発は入ったか。
結構痛い。とりあえず顔には喰らわずに済んだ。
「それ貸せ!」
すぐさまドリラーのうちの一匹に蹴りを入れた。
棍棒が宙に浮く。右手で掴む。力任せに振り回す。
『今度こそ死んでもらウ!』
「!!」
また銃を手にし、赤トサカが引き金を引いた。
何も起こらない。
『な…なニッ!?』
「スカかよっ! ビックリさせんじゃねぇ!」
『グエッ!!』
渾身の一撃を赤トサカに喰らわせた。
『キサマよくもボスを!!』
後ろからまたドリラーが飛びかかってくる。
とっさに振り向き、棍棒をドリラー達の腹に入れた。
『ぐわァ!!』
水色の羽が散った。目の前のドリラー達が一気に消え去った。死んだか。
『チクショウ!!』
「まだいたかっ!?」
もう一度ありったけの力を込め棍棒を振った。
棍棒の軌道は丁度弧を描いた。
『ク……くそォッ……!!』
また水色の羽が散り、ドリラーは霧となり消え去っていく。
モンスターの散り際もはかないと言えばはかないのかもしれない。
「さて、と…あとは」
地面にまだ倒れ込んだままの赤トサカに目をやった。
銃が傍らに放られている。
(弾切れになってなかったら死んでたのかもな)
まだ心臓がバクバク鳴っていることにふと気付く。
あの時は正直ちびりかけた。
「おい、赤トサカ。訊きたいことがあるんだけど」
赤トサカは動かない。
「………おい、返事しろよ」
森の微かなざわめきだけが聞こえる。
「………おい!」
マグはゆっくりと赤トサカの元に近づいていく。
「お前いい加減に……」
『ウオオオォォォッ!!!』
「!!」
『キサマハイラナイ!』
(しまった!!)
身構えた瞬間、右手首に鋭いくちばしの突きが入った。
そしてすぐさま赤トサカの右手がマグの顔面を鷲掴みにし、握り潰さんばかりの力で押しつぶす。
『キサマハイラナイ!! ジャマダ! イラナイ!!』
あまりの痛さに力が入らない。
『キサマハ…キサマハ………ガッ!?』
頭押し潰そうとする圧力が急に消え去った。
「俺を忘れてたんじゃないのかい」
「チーノ!!」
チーノの手には棍棒が握られていた。
間一髪のところで、意識を取り戻したチーノが赤トサカにとどめを刺したのだ。
『グ……キサマハ…キサマナド……』
赤トサカの真っ赤なトサカが、灰色に染まっていく。
『ヤマテノ様ニツブサレルガイイ!! ……グワッ』
霧となり、赤トサカはその場で散った。

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