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マグの足跡(千葉)完
STAGE2-1 ロジメル:りょうしのいえ
「ちくしょー腹減った!」
マグは、雲に遮られ見えない月に向かって吠えた。
男から情報を入手し、マグは直ぐにクラーユへと足を進め始めた。
無一文なのでとりあえずは徒歩だ。
空腹はひたすら我慢…しかしそろそろキツくなってきた。
「そもそも今、どの辺歩いてんだ?」
周りには草木がボーボーと生い茂っている。
とにかく家…建物が無い。
チマチーカの、北へと向かう一本道を歩いていたらいつの間にかこうなった。
おかしいな、最初は商店街とか色々あったのに。
クラーユに向かっているのは確かなハズだが。
「参ったなぁおい…こんなことになるんだったら先にメシ、調達しとくんだった」
この場合の調達とは、どこかに土下座で頼み込むことを指す。
今までは大体はそれで何とかなった。みんな、意外と優しいもんだ。
最悪の場合は、そこら辺の草を食べるという手もあるが…それは避けたい。
「んっ?」
何か自分の探し求めている者が目に入った気がした。
目を凝らす…あれは…家?
「よしっ!」
歩くスピードを早める。むしろ走った。
ちんまりとした木造の民家が次第に姿を大きくする。明かりが付いているのも確認できた。
「すいませーん!」
ドンドン、と玄関のドアをノックした。反応はない。
「ちょっとー! いらっしゃいますかーっ!?」
傍からすれば不審者だ。でも周りには誰もいない。
ドアを叩く音がゴンゴンと響く。
「すいませーん! 」
「今日こそは焼き鳥にしてやるぞこのクソがっ!!」
バン、と扉が音を立てて勢いよく開いた。
「あれ…誰もいない」
「ここだよここ!」
扉の裏からマグが顔を出す。扉にパンチを喰らった額にはタンコブができていた。
「あ…なんだ、人間か」
「人間か、って…」
マグは家の主であろうと思われる、
目の前の小太りで大柄な中年の男に目をやった。狩猟銃を手にしている。
「…あのー、まさかその銃で……」
「ははは、流石に人を撃ったりはしねぇぞ。…また、ドリラーが人の家を荒らしに来たのかと思ってな」
「ドリラー? 誰ですそれ」
「ずる賢いトリ野郎だ。まぁとりあえず入れ、どうせメシ目当てだろ、お前さんは」
「えっ? いいんですか」
グ〜………腹が丁度鳴った。
「あ」
「ははは、相当腹減ってんだな。まぁ、上がってけ」
そうして、言われるがままにその家にお邪魔することになった。
靴を脱ぎ、狭い廊下をちょっと進むと、いきなり広い部屋に出た。
しかし、良く周りをみると布団やら食卓やらキッチンなどが一部屋にぎゅうぎゅう詰めにされている。
「この家、一部屋しかないんだ。あ、トイレは別だがな。とりあえずそこの椅子に座ってて」
「はぁ」
随分豪快な造りだな、おい。
小さな机に椅子が向かい合うよう置かれていたので、マグとりあえず自分に近い方の席に座った。
「ちょっと待ってろ」
そういってその男は冷蔵庫から肉の塊のようなものを取り出した。随分と大きい。
「…あのー、猟師か何かやってるんですか?」
「ああ、一応な。ニクは自給自足。これはこないだ捕まえたクマのニクだ」
「クマニク…」
クマニクとはまたまた豪快な。
「そういや、お前さん、名前何ていうんだ?」
「あ、名前…そういやまだ名乗ってなかった。えーと、マグです」
「マグ、か。俺はチーノってんだ」
ガチャッ。オーブンの扉を閉める音がした。
「これであとは放っておくだけ」
そういってチーノはマグの向こうの椅子に腰掛けた。何というか、でかい。
「…ところでマグさんよぉ、お前さんはなんでこんなへんぴな場所に来たんだ?
普通の人間がわざわざこんな所に来るとは思えないんだが」
「来たというか、何というか…旅の途中なんです」
「旅…どこへ行くんだ?」
「クラーユです」
そう言うとチーノは目を丸くした。
「は? クラーユ? 何しに行くんだ!?」
「色々あるんですよ…」
「へぇ…クラーユ……」
「チマチーカからひたすら歩いて、もう死ぬほど腹ペコになって、
おまけに無一文なんで、とりあえず通りがかった家にお世話になろうかと」
「チマチーカから…? ちょっと待て、それって…」
「何ですか?」
「お前さん、迷子になってないか?」
「は?」
マグは布袋から急いで地図を取り出した。
「あ、ちょっとそれ見せてみろ」
マグが地図を机の上に広げると、チーノが太い指でチマチーカを指した。
「ここがチマチーカだろ…」
指が道筋を辿るように動く。
「本来クラーユに行くのならこう行けばだな…」
「ふんふん」
マグが思い描いていた通りの、ほぼ直線のルートだ。
「ここに来たとなるとこうなる」
道筋を描くチーノの指が辿り付いたのは、
チマチーカからクラーユへと続く大体一直線になっている
道から東にそれたロジメルという所だった。
「あーあ…やっぱり迷ってたのか」
「そうだとも。まぁ、気ぃ取り直せ、ニクでも食って」
そう言ってチーノは席を立った。
「お、焼けてる」
オーブンから肉を取り出した。こんがりと焼けている。色もそうだが、においもたまらない。
チーノが大きめのナイフを取り出して、慣れた手つきでニクを裂いていく。
二枚の皿に一切れ一切れニクが積まれていく。
「ほい、できた」
机の上にジューシーなクマニクが盛られた皿が置かれる。
フォークがちゃんと添えられていた。
「おおおおおおおっ! どうもーっ!」
とりあえずマグはニクの一切れにかじりついた。
「うまい……っ!!!」
「お茶もあるぞ」
チーノがお茶が入った小さなコップを差し出すと、マグは一気にそのお茶を飲み干した。
「いや、ホントありがたい…色々と申し訳ない」
「まぁニクはあまりもんみたいなもんだったし、気にするな。さて俺も食おう」
チーノも自分の分のニクを食べ始めた。マグはひたすらニクにがっついている。
「良かった、上手く焼けてて」
「モグモグ…いやーホント助かりました。
そういや、ちょっと気になったんですけど、モグモグ…さっき言ってたドリラーって、結局何なんですか?
モグモグ…鳥がどうたらこうたら…」
「…ドリラーってのは、モンスターの一種だ。人ん家を荒らすのが趣味なクソどもだ」
「へぇ…モグモグ…なるほど。もしかして一回被害にあったとか? モグモグ…」
「そうだとも。
こないだ、ドアをノックされてるのに気付いて、『ごめんください』という声が聞こえたから、
人間が尋ねて来たのかと思って扉を開けたんだ。
しかしそいつはドリラーだった。急いで扉を閉めようとしたが間に合わなくてな…
部屋を荒らしたあげく食料まで奪おうとしやがった。何とかすぐに追っ払ったけどな…」
「ひでぇ奴らですね」
マグの皿の上にもうニクは残っていなかった。
「名前だけ知っていただけで、奴らを見たのはそれが初めてだった。
二足歩行する羽の無い鳥みたいな奴で、背丈は俺と同じくらい。
まさかここにもモンスターが出るようになるとはな…全く困ったもんだ」
「…………」
そのモンスター、もしかして王女をさらった魔物と何か関係があったり…するのだろうか。
「あ、そうだ」
チーノは持っていたフォークを皿の上に置いた。
「明日、奴らの巣を潰しに行こうと思っているんだが手伝ってくれないか? 泊めてやるからさ」
「巣?」
いきなりのチーノの提案に、思わずマグは聞き返した。
「どうやら、近くの森の奥に奴らの巣があるらしいんだ。巣というよりは根城かもしれんが…」
「あぁなるほど。確かにそこを叩けば奴らもここからいなくなるかもしれませんね」
「頼むよ。あんた図太そうだし。飯はつけてやる」
図太い、ねぇ。そうかなぁ。
まぁそれはそうとしても一応先を急ぐ身ではあるんだよな、自分は。
でも飯にありつけるのなら…。
「…分かりました。お手伝いしますよ」

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