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マグの足跡(千葉)完
STAGE1-2 チマチーカ:そうさく
………………………………。

「おい、しっかりしろ!」
「!?」
閉じていた目を見開き、マグは飛び起きた。
起きた、ということは自分は今まで寝ていたことになる。
隣にはさっきのおじさんがいた。何やら周りが煙たい。
「え? なんで俺寝て…って、何だ!?」
さっきまで華々しく輝いていたフロート車は横転し
リズム隊やトランペット隊はバラバラに倒れ散っていた。
辺り一面、片付けられていないおもちゃ箱のようだった。
商業ビルや飲食店には損壊しているものがあった。
まだ倒れている人もいれば、何か叫んでいる人もいる。
「テ…テロかなんかですか? この国、治安はいいって聞いてたんですけど」
「…分からん。催眠ガスか何かが撒かれて、こうなったとか何とか言ってた奴がいたが…」
「それってやっぱりテロ…あっ!」
「ちょっと待て! どこ行く気だ!?」
おじさんの制止を無視し、マグは横転したフロート車へと一直線に走っていった。
ツノを生やした王族が、普通にそこら辺に倒れているのが目に入った。
異常な光景といえば異常な光景だ。
「え………いない!?」
まさかと思って周りを見渡した。そして前をもう一度みた。
やっぱりいない。王女が……いない。
誰かが体を起こした。あれは確か…王子だっけ? とりあえずそっちの方へと向かった。
「大丈夫か?」
「ええ…ってえっ!? これ、どうなって…というかあなたは…」
「通りすがり」
マグは初めて王子の顔をちゃんと見た気がした。
何というか、頼りなさそうな奴。ツノもあまり威厳がない。
「っと…そんなことより! 王女様がいないんだけどどうなってんだ?」
「え? 姉さんがいない!?」
王子は慌てて周りの様子を見渡した。ただただ呆然としている。
「な……なにがどうなって…姉さんもいないし…」
「さらわれたんだろ」
「えっ……」
マグの指摘にますます焦りだす王子。
「何か心当たりとかないのか?」
「………ない、ですけど」
「そっか……あ」
ここまで来て、ふとマグは我に返った。一体自分は何をやってるんだ? こんなことに首を突っ込んで。
というか、仮にもこいつは一国の王子なんだよな…普通にタメ口を効いてしまった。
まぁそれはどうでもいい。とりあえずここを離れないと…いやまてよ。
「王族って、金持ちなんだよな?」
「………まぁ…そうですけど…」
「じゃあ、仮に俺が王女様を見つけてきたら」
「………そりゃ、お礼はしますけど…」
お礼、すなわちお金。マグにとって今一番、必要なものと言っても良い。
「この状況からして王女様がどっかにさらわれたのは間違いないだろ? ……いや、多分そうだ。
俺が必ず探して助けてきてやるから、待ってろ」
「ホ…ホントですか?」
こいつもこいつで良くわからない。普通ここは突っ込んでも良いところだろうに。
「ああ」
とりあえず自信満々に答えておいた。
「あの…あなたの名前は?」
通りすがり…いややっぱやめた。
「マグ」
「『マグ』、さん?」
「そんじゃ、失礼しました」
言いたいことは言い終わったので、マグはその場からすたこら走って逃げ去った。

それからもう四時間以上は経っただろうか。
マグは、チマチーカの界隈にあるうす暗い小道をさまよっていた。例の北大通りからは大分離れたところだ。
後から耳にした話だが、やっぱり王女は行方不明になっているらしい。
やっぱり自分が探さなければ。今から思うと自分は本当に馬鹿なことをしたなぁと思う。
しかし、後悔している訳でもない。金も手に入るし、そしてあの王女とも…。
まぁそれはともかくとして、いい機会じゃないか。
最近は店の手伝いに、畑仕事、屋根掃除、としけた仕事ばかりだった。
たまにはこういう仕事も悪くない。自分が探している間にあっさり王女が戻って来たら
自分は笑い者にされるだろうが、それはそれでハッピーエンドといえる。
「しかしどうしたもんかねぇ」
マグがまず最初に始めたのは、情報集めだった。
ただやみくもに王女を探すのは流石に無理がある。
といっても、そう簡単にウラ情報が手に入るかといえば、それは違うわけで。
次は…あの恐そうな金髪のねーちゃんにでもあたってみるか。
「あのー、ちょっとお訊きしたいことが…」
「…何? 昼のテロ? 王女がどこに居るか? そんなもん知らないに決まってんだろ、あっちいきな!」
この手の反応はこれで何回目だろうか。やっぱり都会にはロクな連中がいない。
場所が場所のせいもあるだろうが。とりあえずヘコんでいる暇はない。
「さて次は…」
「君の知りたい情報ならここにあるぞ」
「えっ? って誰だ!?」
マグは思わず振り返った。
「ニイちゃん、取引しないか」
そのダミ声の主は、石段に腰をかけている中年男だった。
汚いロングティーシャツにジーンズ、そして頭に巻かれたボロ布。頬はこけている。
あまり人のことは言えないが、正直まともな奴には見えなかった。
「…ニイちゃん、聞いてるのか」
「情報って…王女の場所知ってんのか!?」
「そりゃ、知ってるとも」
「ホントかよ」
男はにたりと笑った。…賭けてみるか?
「あんた、取引って言ったよな。いくら欲しいんだ?」
「ニイちゃん…安易な発想だなぁ。君はお金で何でも手に入るとでも思ってるのかい?」
「だって、あんたがカネ欲しそうな目をしてるから」
「ハハ。じゃあもう一つ訊こう。君は王女を探しているんだよね。王族のお礼が目当てなんだって?」
「! …どこでその話聞いたんだよ」
「へっへ。俺の耳には自然と入ってくるんだよ」
あいかわらず男はにやけ顔だ。
「そこまでしてお金が欲しいってことは、ニイちゃんも貧乏なんだろう。
なのに『いくら欲しいんだ』って言われてもなぁ。大した額は持ってないんだろ…」
「何だ、やっぱりカネじゃんか」
「まぁね。…この国で生きていく上で、一番大切なのはお金だから仕方ないのさ」
自嘲するかのような声で男は言った。この妙なトーンは、先程からずっと一定である。
多少の沈黙の後、男はまた口を開いた。
「…さて、そういうわけだ、取引しよう」
「……いくらだ?」
嫌な予感がした。
「君の、今持ってるお金…全部くれ」
「ぜ、全部って…お前馬鹿か!?」
「もちろん、半分くらいのお金を隠し持って、
もう半分を渡して全財産です、ってのはナシだよ」
「う…」
しまった、先を読まれた。
「どうする? 少ないお金で大金をゲットするチャンスかもしれないよ?」
「少ないカネ言うな! ちっ、ホントに賭けだな…」
「さぁ、どうする…?」
マグは瞼を落とし、考えた。
賭けと言えば賭けだが…このチャンスを逃したら…次はあるのか。
「…分かった」
マグは腰に引っ提げていた袋の中から財布を取り出し、それの口を開き、引っくり返した。
コインが音を立てて落ちていく。
「くれてやるよ。なけなしの俺の全財産だ」
「へぇ」
男はちょっと驚いたようなそぶりをしてみせた。
「これ、貰っていいの?」
「情報くれるんならな」
「じゃあ貰う…これで全部、か…まぁ君を信じよう。
…人に渡す時はもっと丁寧に渡した方がいいとは思うけどね」
「あ、ごめん」
「まぁいいけど…これで一応タシになる…」
コインを拾いつつ、独り言を言うように男が呟く。
「で、情報は?」
「まぁそう焦るな」
コインを拾い終わると、男は石段に腰掛け直した。
「…王女は、ここからずっと北に行ったところにあるクラーユって土地にさらわれた
…いや、さらわれる可能性が高い」
「クラーユ?」
マグは持っていた地図を取り出し、広げた。ここ、チマチーカから…相当離れた場所にある。
チマチーカはミガサの南端に位置しているが、クラーユはミガサの北端に位置している。
「いやに遠いな…というかここ、山奥だろ」
「はは。まぁこれだけ遠けりゃ、王女をさらった奴がクラーユにまだ到着しているとは考えにくい。
が、今そいつがどこを動いているのかなんてのは分からない。
だから、とりあえず君が目指すべき場所は…クラーユだ。そこで絶対に王女に会える」
「…根拠は? というか、そこまで分かってるんならさらった奴も知ってるんじゃないの?」
そうマグが訊くと、男はにやりと笑ってから言った。
「今教えても特に意味はない。だから秘密だ」
「何だよ、それ」
「とりあえずはクラーユに行け。そうしたら分かるさ、全部。
あ、一つだけ言っておくが、さらった奴は人間じゃない。魔物だ。気をつけろ」
「魔物? それなら別になんとかなるわ、モンスターとか、そういうのには慣れっこだし」
昔旅に出たばかりの頃…色々と無茶をしたなぁ。少し懐かしい気分になった。
「へぇ、旅でもしてるのか」
「まぁね…これで情報は全部?」
「…言いたいことは言った」
言いたいことねぇ…まぁいいや、とりあえず礼は言っておくか。
「んじゃ、ありがとうございました」
「じゃあな。頑張れよ」
男はどこか満足げな笑みを浮かべていた。

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あきゅろす。
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