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蒼空に散る (紺碧の空)完
曇色の空
 パイロットスーツに身を包み、いつものサングラスをかける。コックピットに乗り込むと、セルゲイが既にWSO席に座っていた。
「おい、このクーガー対空ミサイルが積んであるぞ」
「あのじいさんの仕業だよ。適当な時に撃ってくれていい」
第一格納庫からエンジン音が聞こえた。グスタフのクーガー、機体番号110が滑走路へとタキシングしてゆく。まだ外は暗く、着陸灯を全部点けていた。そのまま離陸。俺のヘッドホンにも彼女の声が聞こえてきた。
「Cougar121, Auzat tower with you」
「Good morning」
「Cougar121 taxi into position and hold runway01」
「Taxi into position and hold runway 01」
「Cougar121 wind 340 at 8, cleared for take off runway 01」
「Cleared for take off runway 01 Cougar121」
「Good luck」
「Thank you」
機体は離陸し、グスタフ機の後に続いた。Mi-17も発進し、三機は編隊を組んでスレッタへ向かった。演習場の空き地に垂直着陸し、兵員を詰め込んだ。即座に離陸、フォイーユへと向かう。薄明のうちに、指定の地点へ到着した。敵の気配はない。歩兵部隊の隊長はこちらに敬礼し、森の中へと消えて行った。
「さて、始めるか?」
セルゲイがこちらを向いてニヤッと笑った。もちろん、とばかりに答える。クーガーは轟音を立てて離陸した。日の出があったようだが、空が曇っていてよく見えなかった。
「敵発見!」
木陰に、一台の装甲車が止まっていた。あれは、ドネシアには無いタイプだ。俺が受け持っている、20mmキャノン砲の引き金を引く。目標は大爆発した。
「やったぞ!」
その後もセルゲイが敵の装甲部隊を発見し、対地ミサイルで一掃した。あまりに、一方的な戦い、いや、虐殺だった。その時、レーダーが警告音を響かせた。
「後方から敵機接近!」
「何だって!?」
とっさに回避運動をとる。真後ろから通り過ぎて行ったのは、紛れもなくラストニアの戦闘機だった。
「なんであんなのが残ってやがるんだ!」
セルゲイがスティンガーを撃った。射点はよかったが、当たったかどうかは分からない。そこへ、今度は前方からドネシアの戦闘機がかすめた。危うく激突するところだ。
「これはまずいな……高度を下げよう」
密林の上空すれすれを全速力に近い時速300kmで飛びぬける。再び、レーダーが悲鳴を上げた。
「真下からミサイル!」
俺は機体を横倒しにしたが、避けきれなかった。至近弾が炸裂し、ガラスが粉々に砕け散る。御守の50セントもどこかへ吹き飛んでしまった。機体が一気に失速する。ローターがゆっくりと逆回転を始め、クーガーは墜ち始めた。エンジン計器チェック。問題なし、ただのエンストだ。だが、今ローターを正回転させると危険だ。とりあえず、不時着できるところを探す。あった! 焼き畑を行った跡が密林の中にぽっかりと開いていた。軌道修正をして空き地に向かう。脚部ランディング・ギアを下ろした。後輪が接地。三度ほどバウンドして、不整地に何とか着陸した。
「助かった……」
ほっと一息。後は、もう一度エンジンを掛け直すだけだ。
「セルゲイ?」
返事は無かった。恐る恐る左を見ると、つい先日まで、美しい音色を奏でていた、その偉大なる右腕が落ちていた。他は、何もない。ただ、右腕が、引き金を握ったまま残されていた。
「うわあああああああああ!!」
俺は、どうしようもなかった。一体、どうしようというんだ。もう、何が何だか分からなかった。ただ、俺の呻きだけが森にこだました。
「落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け」
まず、何をすべきだ。ライネッケ少佐はどうしろと言っていた。俺は、エンジンの起動レバーに手を掛けた。
「あれは……」
前方の森の陰から、ラストニア軍の対空戦車が姿を現した。奴ら、あんなものまで持ち込んでいたのか。このままでは動けない。離陸しても、すぐ撃ち落とされるだけだ。その時、奴の向こう側からヘリの音が聞こえてきた。今だ! ゆっくりとエンジンを掛け、メインローターを回す。あれは、グスタフのクーガーか? 対空戦車は、むこうに砲塔を向けた。
「あがれぇえ!」
エンジン出力をレッドゾーンまで放り込む。爆音とともに、機体は浮き上がった。ラストニアの兵士がこちらを指差したのが見えた気がした。頼む、このまま逃げ切らせてくれ! 奴の砲塔が電動高速旋回型でないことを祈る。
 
 残念なことに、SVK-03の砲塔は各国の対空戦車の例に漏れず電動高速旋回型であった。一秒もしないで砲塔は121番機を狙うと、四連速射砲を連射した。あと少しで射程外であったクーガーは蜂の巣のようになり、炎上して空中で爆発した。

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