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蒼空に散る (紺碧の空)完
真緋の空
 翌日。大型輸送ヘリMi-17が到着し、大量の兵士と一名の新米WSOを吐き出した。ヨハンというらしいが、彼はグスタフの担当となった。その日、俺は特にすることもなく、部屋で画材を広げていた。何を書こう。基地の全景、否。ラウンジの洒落たランプ。いまいち。そうだ。思いついた俺は、絵筆を走らせた。気づくと、太陽が落ちてきている。ドアの向こうから、歌声が聞こえていた。彼女の声。やはり、そうであったのだ。 

 俺は、ふと格納庫にあるクーガーの様子を見たくなった。本舎の横を通り、第二格納庫へ向かう。トタンの小屋の中は、いやに明るかった。
「何やってるんだ!」
アランは機体の横に穴をあけていた。一体何をしてるんだ!
「おう、ローベルト。見ての通りハードポイントの増設じゃ」
「そんなことを勝手にされては困る」
「まあいいじゃないか、明日は作戦だぞ……武装は多いほうが良かろうて」
何を言うんだ。作戦は明後日だ。このじいさんはおかしくなってしまったのだろうか。
「ハードポイントが二つでは何もできん。少なくとも、四は必要じゃ……」
アランはソケットを加工し終えると、奥の部屋から機銃を山積みにした台車を押してきた。
「あんたは先に来たからな、選択権をやろう。こんなかから好きなのを選べ」
20mmキャノン砲。12.7mm機銃。ガイアットキャノン。57mmロケットポッド。7.62mm連装機銃。
「よくもまあこんなにかき集めたもんだ」
「対空ミサイルはどうする。エクソケットASMか? スティンガーか? FFARポッドか?」
まさか。ゲリラ狩りに、どうして対空ミサイルが必要だというのだろうか。元来クーガーは中型輸送ヘリであり、ドネシアではやむを得ずマルチロール機として使っているのだ。
「そんなもの積んだら、機動性が落ちる」
「使ったら軽くなる。使わないような戦闘なら、機動性はいらん」
アランはその一点張りだった。仕方ないので、一番軽いスティンガーを積むことにした。その時、スピーカーが雑音を辺りにぶちまけた。
「パイロット、およびWSO要員に継ぐ。隊長室に来い。以上」
ライネッケのイライラした声だった。俺は後のチョイスをアランにゆだねると、本舎へ走った。

 隊長室には既に他の四人が到着しており、俺は最後だった。敬礼をして入ると、少佐の横に見慣れない男が立っていた。
「これで全員だな? 皆のもの、よく聞け。緊急決定により、作戦が明日に前倒しされることになった」
アランはこのことを知っていたのだろうか。少佐は杖をついて立ち上がると、大きな地図の前に立った。俺はその時初めて、彼が義足であることに気付いた。
「フォイーユの森に集結したラストニア軍は」
ゴホン、とメガネの男が大きな咳ばらいをした。
「失礼、紹介するのを忘れていた。陸軍戦略局から来たゴットシャルク氏だ。さて、ラストニア軍は」
ゴットシャルク氏はまた咳ばらいをし、小さく付け加えた。
「叛乱軍だ」
「失礼、叛乱軍は、現在フォイーユの森に集結しているが、彼らの反攻作戦が明日の正午に予定されていることが判明した。そこで、我々はそれより先に地上部隊を叩く」
ライネッケは杖で窪地の辺りを叩いた。
「我々は陸軍の依頼を受けて、第三歩兵部隊を輸送することになった。彼らを指定の地点に降ろした後は、上空から対地攻撃を行うことになっている。また、南のヘルマン空軍基地からも航空部隊が出動し、一気に制空権を握る予定だ」
ライネッケは戦略局の男に何か話すと、こちらに向き直った。
「ラストニアは既に我が北ドネシアに廃滅されたとはいえ、依然として戦力は健在だ。残党と侮らず、十二分に準備をしてかかって欲しい。よし、この作戦において何が最も重要か、わかるか」
少佐は全員に目を向けた。しばし沈黙。新米のヨハンが口を開いた。
「歩兵との密接な連携、ですか」
「違う」
他に? とライネッケは聞いたが、誰も答えなかった。
「わかるか、一番大事なのは、生きて帰ることだ。この作戦は、もはや戦争ではない。往生際の悪い叛乱軍と、しつこいドネシア軍の小競り合いだ。そんなことで、死ぬな。蛮勇は許さん。生きて帰れ。明朝三時出発。以上だ」
パイロットたちは各々の部屋へ散った。少しでも寝ておけば、生存率が上がるというものである。


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