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蒼空に散る (紺碧の空)完
群青の空
 偵察機は一人の男を下ろすと、再び飛び立って行った。一通りの誘導を終えると彼女は礼を言ってくれたが、俺は答えなかった。あの男……どこかで見た気がする。管制室を後にし、滑走路へ駆け出す。推量が確信へと変わっていった。
「セルゲイ! セルゲイじゃないか」
「おお、ロビィか!」
後ろから、スフィアが追いかけてきた。また息を切らしている。
「一体どうしたんですか!? こんなに急いで」
「紹介しよう。俺の高校時代の友人の、セルゲイ・ラミエールだ」
「ラミエール軍曹です。よろしく」
彼は軽く会釈した。敬礼とか、そういう習慣は無いらしい。
「しかし、奇遇だなぁ、こうしてまた君に会えるなんて」
彼は、俺と同じ芸術高校の音楽科学生だった。芸術科クラスの俺とは本来接点が無い筈であったが、食堂でとある声楽科の美人学生の隣の席を奪い合うという珍妙なきっかけから友情を築き、卒業後連絡が取れなくなっていたのだ。
「まさかロビィ、お前パイロットになったのか!」
「お前だって、徴兵はラミエール家の財力で何とかするんじゃなかったのか」
「ハハハ……こればかりはね」
セルゲイは肩から大きな荷物を下げていた。まさかとは思うが……。
「そう。こいつだけはどうにか持ち込んだ」
彼はヴァイオリン奏者だった。しかし、まさかそれを戦場に持ち込むとはもの好きである。俺も人のことは言えないが。
「で、今は何をやってるんだ」
「WSO(ウェポンシステムオペレータ)だよ。戦闘ヘリのね……ここにもそれで配属されたんだが」
「ラミエール軍曹には、クーガー121号機のWSOをお願いすることになっています」
ヴァンクィッシュ伍長が書類を読み上げる。俺たちは、拳を合わせた。まさか、旧友とコンビを組むことができるとは、願ってもなかったことだ。これも人手不足のせいだろうか。そう言えば、あの声楽科の学生はどうしているだろう。ヴァンなんとかいうお嬢様だった。ん? いや、なんでもない、気のせいだろう。

 その晩、オーザ基地はパーティのような様相を呈した。セルゲイがヴァイオリンを演奏し、その多大なる才能を披露したのである。その達者な口は、グスタフにすらちょっとした想い出話をさせるに至った。アランは聞かれなくても話し続けた。ライネッケ隊長だけは、部屋から出てくることが無かった。
「次は何がいい? ベートーヴェンか、バッハか?」
「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ、第二番」
グスタフのリクエストだ。
「よし来た」
繊細な弦と弓から、美しい旋律が流れ始める。ふと窓から夜空を見上げると、見渡す限り星々が広がっていた。


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