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蒼空に散る (紺碧の空)完
払暁の空
 まだローターが止まらないうちに、一人の女性が駆け寄ってきた。かなり息切れしている。
「あの、さっきは申し訳ございませんでした!」
「いや、別に貴女が謝ることは無いんですよ。それより、ここのレーダー手を出して下さい」
「それが……レーダー手も私なんです」
俺は唖然とした。いくら人手不足とは言え、管制塔に人が一人しかいないのは問題だろう。
「それなら仕方ない。私と交信している時、貴女が遠距離レーダーを見ることは物理的に不可能だった」
「もともと二人だったんですけど、もう一人の子は今マラリアにかかって入院してるんです」
「それはお気の毒に」
俺はコックピットから降りると、滑走路の兵士たちを眺めた。
「この基地には、今三人しかいないんです。あ、昨日ヘリで来たパイロットも入れると四人ですね。それが、三人が三人とも気難しくって、困ってたんですよ」
「ここのボスはどこにいる?」
「隊長はまだ寝てます。それが、おっかない人なんですよ。それに、整備士のアランさんも時々何を言ってるのか分からなくて……」
こっちが訊きもしないのに、よく喋る女だ。今まで、余程寂しかったと見える。
「基地要員が三人ってことは、守備隊はいないのか?」
「それは、大丈夫なんです。前線は随分遠いし、近くにスレッタの陸軍基地がありますから。後、この辺地雷原になってるんですよ。だから、大丈夫なんです」
そういえば、今管制塔は空になっているのだろうか。
「大丈夫なんです、今日は午後まで飛行機は来ませんから」
彼女は笑って言うが、味方が不時着するかもしれないとかそういうことは考えていないらしい。
「それじゃあ、私はあの人たちにそろそろトラックに乗るよう言ってきますね」
そう言うと、彼女は滑走路に向かって駆けて行った。まあ、少し抜けているにしても、悪くはない奴だ。ショートヘアが似合っていた。

 隊長室に行っても本当に誰もいなかったので、俺は仕方なくハンガーに戻った。愛機のクーガーを見つめる。俺は密かに小さなイーゼルと絵具類を持ち込んでいたが、こいつだけは描く気になれなかった。
「よおう、そこの兄さん。パイロットかい?」
驚いて後ろを振り向くと、一人のじいさんが立っていた。
「背後の気配に気づかないとは、パイロットとして致命的じゃな」
じいさんは笑った。そうか、こいつがアランだ。
「クーガーの事なら、わしに任せなさい。こいつはいい機体だが、整備次第でもっと良くなる。悔しいのは、こいつがドネシア製じゃないことかな」
アランは機体を撫でた。このじいさんも、悪くはない奴だ。実力はまだ未知数といったところか。
 
 ラウンジに、もう一人の男を発見した。「ああ」と「いや」しか言わない、スキンヘッドの寡黙な男だった。俺としてはこういう奴が一番近くにいて楽だ。こいつが、おそらくもう一機のクーガーのパイロット。

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あきゅろす。
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