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蒼空に散る (紺碧の空)完
薄明の空
 俺は、画家になるのが夢だった。世界中を旅して古代の遺跡、雄大な自然、人々の息づく街を描きたかった。
その俺が、今取り憑かれたように人を殺している。何故、こうなったのだろう。何時から、こうなったのだろう。正確な答えを、俺は持たない。
 
 頭上のエンジン音が内臓を震わせ、後部にいるはずの人々のざわめきは聞こえなかった。いや、元々、誰も喋ってはいなかった。皆、ただ一心に、生還することだけを願っていた。

 俺は、この戦争の目的を詳しく知らない。なぜなら、知ろうとしなかったからだ。知っても、理解はできなかっただろう。今わかるのは、俺はパイロットであり、後部にいる彼らを目的地へ運ばなければならないということである。そのためには、敵を倒さなければならない。敵? それは、一体何なんだ? 別に、俺はラストニア人を憎んでいるわけでもなければ、ラストニア人の知り合いがいるわけでもない。全くの未知だ。彼らを、殺さなければならない。何故か? そうしなければ、殺されるからだ。何故殺し、殺されなければならない? このあたりでいつも俺の意識は、小旅行から帰ってくる。大抵、その頃には飽きているか、目的地に到着しているからである。
 
 前方に、のっぺりとした滑走路が見えた。密林の中に突然アスファルトの塊があるのは異様な光景である。俺は、乗客が安堵するのを背中で感じた。
「Cougar, this is Auzat tower radio check. How do you read?」
ヘッドホンに久しぶりに人の声が舞い込んだ。まだ若い女性だ。
「Hello, this is AS 332L Cougar, 121」
「Cougar121, wind 340 at 7knots, clear to land runway 01」
第一滑走路とはよく言ったものだ。一つしかないのに。
「Clear to land runway 01 Cougar121」
「Perform landing check」
その時だった。警報が鳴り響き、急速に接近する物体をキャッチしたことを知らせた。遥か上空を、一機の戦闘機が暁に黒煙を残して消え去った。あまりの速さに、敵味方の識別すらできない。あの分では、おそらくパイロットは死んでいるだろう。すぐに衝撃波が届き、機体は大きく揺れた。テイルローターの出力を調整し、立て直す。このあたりの動作は、もう体が覚えていた。
「あのっ……Are you OK!?」
「It's OK. No problem」
「I'm sorry……Well, gear should be down」
「Gear should be down」
降着装置を出す。このヘリは、スレッドではなく車輪型だ。
「Begin descent」
「Begin descent」
「Turn left heading 338, come back to course slowly, on glide path, heading and rate of descent are good」
メインローターの角度を変えて徐々に高度を下げ、滑走路に進入する。時々ヘリコプターに滑走路はいらないという奴がいるが、実際垂直着陸は余程の事がない限りしないのである。
「Guidance limit, take over visually contact tower after landing, wind 240 at 8. Thank you」
「Thank you very much, cleared to land Cougar121, good day」
「Good day」
鈍い振動とともに、後輪が接地した。フロントガラスに吊るした御守の50セント硬貨が揺れる。完全に着陸すると、エンジンの出力を最低まで落とし、そのまま格納庫までタキシングしてゆく。途中で側部のドアを開け、兵士たちは外へ飛び出した。
「助かった……!」
余程地上が恋しかったのだろう。皆滑走路に寝転がり、朝日を体に受ける。今までずっと、いつ墜ちるかもわからない箱に閉じ込められていたのだ、無理もない。
「Auzat tower, Cougar121 has landed」
「OK, please taxi gate02 via A, R4」
「Taxi via A, R4 Cougar121」
第一格納庫には、既にもう一機のクーガーが駐機していた。隣の第二格納庫へ入ってゆく。正確な位置で停止すると、エンジンを切った。


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あきゅろす。
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