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縹(禮晶)完

「な……」
縹に触れる寸前、飴細工の様に曲がってしまった刃。
「忠告だけはしておいたぞ。」
恐怖を覚えた随身はいそいそと行列を進めにかかった。
だが、…否、やはりとでも言うべきか。
輿が崖の下にさしかかると、巨大な岩が降ってきた。
パニック状態になった行列。
既に何人かが岩に押し潰されている。
「だから言ったのだがな」
別に誰が死のうと全く関係なかったのだが、かと言って素通り出来るほど縹も冷酷な訳ではなかった。
(俺もお人好しだな、全く)
見ると、輿の担ぎ手が輿を放り出して逃げだしている。
置き去りにされた輿の中から少年が這い出てきた。
(あ、馬鹿、大人しく輿の中に居てくれよ)
既に上から降ってくるものは岩から矢へと変わって来ており、弓矢ならば布一枚で生死が分かれる事もあるのだ。
少年を狙って矢が雨あられと降り注ぐ。
「…………!」
「邪魔だ。輿の中にいろ。」
驚いて尻餅をついている少年に縹は言い放った。
矢は、空中で静止している。
そしてそのまま糸が切れたかの様に落下した。
「これはこれで危ないか」
まだまだ修行不足。頑張れ、自分。
ふと気付くと痛い位に皆の視線が集まっている。
「しがない通行人其の一だった筈なんだが…」
崖上の者達も例外ではなかったが我に返って逃走してしまい、その素早さに縹は寧ろ感心した。
まぁ、美味しい秋刀魚も腐る時の速度は非常に早いのだし、腐った側の人間も足が速くなるのかもしれない。
(いや、もし逆だったら失礼か。)
皇族側が腐っているという方も考えなくては駄目か…などと取り留めも無い事を考えながら、縹が立ち去ろうとすると後ろから誰かが彼を呼び止めた。
「すまない、助けてくれた事、礼を言う」
玉皇太子殿下であった。
よく見れば縹と同じ様な年格好の少年である。
薄藍色の瞳を見た玉はへぇ、と呟いた。
「それ、本物か?」
「両方義眼だったら見えないだろうが。」
「それもそうか。」
妙に納得している様子の玉皇太子殿下。
「先程のような不思議の術はそれ故に使えるのか?」
目が縹色だから、という事らしい。
説明するのが面倒だったのでそういう事にしておいた。
「そなた、名は何と申す。」
「………縹。」
「そのままだな。」
助けなきゃ良かった、と縹は心の底から思った。
「あ、すまん。気にしていたのか?」
「十六年間言われ続ければ嫌にもなるさ。」
ちょっとだけ翡が恨めしい。もうちょっとだけマシな名を考えて欲しかった。…自分も具体例は挙げられないが。
「ならば縹。私と共に宮中へ参らぬか?」
玉曰く皇太子と言えど安穏とした立場ではないらしい。
腕の立つ護衛の類はいくらでも必要なのだという。
都合良い、縹は心の中で呟いた。


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あきゅろす。
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