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縹(禮晶)完

人界・桓(カン)ノ国。
天命を持つ者・帝が治める国であるらしい。
らしい、と言うのは天命を受けたのはせいぜい初代だけで後は皆、先祖の功績にしがみついているだけだからだ。

「来たのは良いが…」
さて、何処で何をすれば良いのやら全く分からない。
翡にかつて計画性皆無だとか言われた事を思い出して縹はちょっと暗い気持ちになった。
(まぁ、あれは夏祭りの小遣いの話だったし…)
気を取り直してまず何をすべきかを考える。
太白剣の在処はやはり宮中の宝物殿辺りだろう。
やはりてっとり早いのは忍び込む事だろうか。
しかし、縹としては余計な騒ぎを起こしたくない。
あれこれ考えながら崖下を歩いていた時のことであった。

「………………。」

崖の上に複数の者がいる。
どうやらこれから通る誰かに岩でも落とす予定らしい。
(物騒だ、と言うか通行人の迷惑を考えろ…)
そもそも、そんな派手にやらなくても毒なり呪詛なりもっと露見しにくい手だてはあっただろうに。
変な所で正々堂々でも仕方あるまい…と縹は呆れた。
巻き込まれたくないのでさっさと通り過ぎてしまうと、向こうからゆっくりと輿がやって来た。
美麗な装飾が施された皇族の乗り物である。
……標的はこれらしい。
(世も末だな…)
まぁ、自分には関係無いしどうでも良いが。
だが標的にされた皇族はともかく周りの随身の者達が気の毒だったので、縹は一応忠告しておく事にした。
「……別の道を通った方が良い。」
かなりぶっきらぼうな言い方に随身の者は怒った。
「小僧!何の下心で玉(ギョク)殿下の行列を止める!」
確か玉は桓ノ国の皇太子の名前だったな、と縹は友人に教えて貰った人物一覧を脳内でめくりながら思った。
「これから起こる事に対し忠告しただけだ。」
随身は無礼討ちだ、と剣を抜くと縹に斬りつけた。
(こいつ絶対血圧高くて長生きしないぞ…)
無駄に高いのは血圧ではなく矜持もか、と思いながらも縹は自分めがけて振り下ろされる刃を睨んだ。


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