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羽那陀(禮晶)完

羽那陀が應に同行する事は、拍子抜けする程簡単に許されてしまった。
彼女は知らなかったのだが、應の曾祖父にあたる竜(リョウ)という帝の傍らにはかつて天帝陛下の姫がいたらしい。
その姫も白銀の髪で、羽那陀もまた霊妙な力を持つ娘と思われた様だ。
という訳で、現在は應付きの侍女に収まっている。
「農民の娘が皇族の侍女……偉く出世したものだ。」
「普通は貴族階級からだしな。なぁ、白銀の君?」
「気色悪い!」
「………ちょっと傷付くぞ、それ。」
髪の色から羽那陀は白銀の君などと呼ばれており、それがむず痒くてならない。白銀だけで良いのに。
因みに應は敢えてそう呼んでからかっている。
「ご機嫌麗しそうで何よりだ。なぁ、白銀の君?」
「そう見えるなら眼医者へ行くか頭を冷やせ。」
そう羽那陀が言った瞬間、應の頭上に桶一杯分はありそうな水が狙った様に降り注いで来た。
二人は顔を見合わせた。…一体何処から水が。
それよりも、タイミングと場所が羽那陀の言葉と一致しているのも摩訶不思議である。
世の中にはそういう術師もいるのだが、羽那陀は術師でない。
その類の潜在的才能が無いという事も断言出来る。
「最高級の絹だったのにな。勿体無い。」
「お前、うわべだけでも他人の心配してくれてもばちは当たらないと思うんだけどな………」
物凄く控えめに應は抗議したが綺麗に無視される。
彼が着替えている間輿の外で待っていた羽那陀は肩に垂れた髪の銀色が微妙に淡くなっている様に見えて、首を傾げた。光の加減だろうか?
だが、妙に仄白く見えてならない。
「おい、終わったぞ。」
釈然としないながらも羽那陀は輿に乗り込んだ。
乗り込もうとした瞬間、誰かの冷たい視線を感じ羽那陀は振り向いて辺りを見回した。誰もいない。
「羽那陀?どうかしたのか?」
「いや…………何でもない。」

苔むした土地神の像がひっそりと佇んでいた。


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