[携帯モード] [URL送信]

羽那陀(禮晶)完

一方、神仙世界。
涙目になりながら一向に減らない書類と格闘する親友に水蛇は紙包みを差し出した。
「何だ、これ。」
「人界で買って来た餅菓子だ。やる。」
その言葉に縹の表情が一変した。
「 親友や あぁ親友や 親友や 」
「………何だ、それは。」
「世間で某島国の昔の廃人が作ったとされている俳句を改作して親友への感謝の意を表現した。」
得意げな表情の縹に水蛇は頭痛を覚えつつ訂正を入れた。
「…それは廃人じゃなくて俳人だろう。」
「え、そうだっけ?」
馬鹿だ、と水蛇は思った。何か色々と欠けている部分があるのは知っていたが一般教養も無い様だ。
ところで、と縹は水蛇に問うた。
「水の妖魔の骸、出たか?」
「それが、行方不明だ。すまない。」
申し訳無さそうな水蛇に縹は気にするなと言った。
討伐という最大の目的は既に果たされているのである。
「となると、何かに憑依した方向か?」
「しかし、仮に取り憑ける様なのがいたとしても、あの状態では憑依した対象の中でとっくに死んでいるだろう。多分、捕縛は不可能だ。」
「だよなぁ。だが、それも問題だな」
「あぁ。事後処理をするにしても色々と面倒だ。」
仮に妖魔が死んだり離れたりしても、憑依された対象の内側にその通力の類が残留してしまう事は割とよくある話だったりする。
だが、放っておけばその通力に対象が負け、死に至ってしまう。
今回は水の妖魔だったので次第に身体が淡くなり最終的には水に還ってしまう可能性が高い。
「水蛇、通達を。そういう奴を探せって。」
「了解した。……縹。」
「ん?」
「余り気に病むんじゃないぞ」
縹は親友の察しの良さに密かに舌を巻いた。
人は己とは異なったものを本能的に恐れ、時には排除しようとする事もある。妖魔に憑依されたら確実に何かしらが常人とは異なってしまう筈だ。
「…辛い目に逢わねば良いが……」
かつて縹もその類の理由で捨てられた過去があり、それ故につい感傷的な気分になってしまうのだ。
妖魔に憑依された者は、まだ、無事でいるだろうか。
窓の外には何処までも続く蒼い空が見えているが、それが嵐の前の静けさとしか縹には思えなかった。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!