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羽那陀(禮晶)完

…………。…………。……。
此処は?
どうしてか羽那陀は何処かの池の畔にいた。
己は生け贄にされた、という事は此処が冥界か。
それにしては神々やお釈迦様どころか閻魔大王も、頭に輪を乗せた異教の神の御使いもいそうにない。
何だか全身が泥臭いので、羽那陀は取り敢えず池に入って身体についた泥や藻を洗い流し始めた。
「…………!」
見間違いかと思った。だが何度見ても変わらない。
羽那陀の髪は、周りの者同様、黒かった筈だった。
だが水面に映る己の髪は何故か月光の様な白銀にすっかり変色していたのだ。冗談抜きで。
これはあれだろうか、革命の勃発した自国からの脱出を謀ったどこぞの国の王妃の髪が一夜にして老婆の様な白髪になったのと同じ現象だろうか。
だが、そこまで精神的負担がかかったとは思えないのだが……
…それとも単に目がおかしくなってしまったのか。
考え込んでいた羽那陀は不意に肩に置かれた手に仰天して思わず叫び声をあげてしまった。
「すまん、驚かすつもりはなかったんだが。」
自分と似た様な年格好の少年だった。
いかにも高そうな衣を着ており何処ぞの御曹司に見えなくもないが、纏う雰囲気は良く言えば素朴、悪く言えば庶民臭いと言うよく分からない少年だ。
「凄いな、白銀の髪だなんて。それ、本物?」
「私はまだ鬘が要る程の歳じゃないが…」
「本物なんだ?珍しいものを見させて貰った」
「いや、本当は普通に黒髪だったんだけど。」
羽那陀は簡潔に自分の身に起こった事を話した。
少年は興味深げに聞いていたが話を聞き終わると改めてまじまじと羽那陀の顔を見た。
「………。」
他人に、しかも異性にじろじろと顔を見られても全く嬉しくはない。むしろ居心地が悪すぎる。
「上流階級の方々は他人の顔をじろじろ見るのが
 礼儀だという事になっているのか?」
「うん、そうだよ。」
「……………。」
「真に受けるなって、冗談だから。ごめん。」
屈託の無い少年に羽那陀は怒る気力も萎えた。
「俺は應(オウ)。そっちは?」
「私は羽那陀」


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あきゅろす。
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