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蛟竜(禮晶)完

コウは崖の下の道を歩いていた。
ここまで来れば都まであと残り僅かだと思ったその時、近くから激しい剣戟の音が聞こえてきた。
崖に沿わせていた手がそこで空を掴んだ事から道はここで折れ曲がっており、その曲がった先で誰かが戦っている様子である。
(二対一、か?一人の方も頑張っているが…。)
二対一で一人を追い詰めているからと言っても二の方が絶対に悪だと決めつける事は出来ない。
ここは傍観者でいる事が無難であろう。
下手に他人の喧嘩に関わるとろくな事にならん、びた一文も得にはならないのだ。
その時、二人の方の内の一人が彼女に気付いた。
「……何者だ?」
「単なる通行人だが。」
単にコウは冷静にそう答えただけだったのだが、その余裕さ加減が逆に不審に思われたらしい。
二人は剣を抜くと彼女に襲いかかって来た。
「私はこれでも平和主義者なのだがな」
盲目のコウは相手を斬る事は余り上手くないが、反面、相手の剣筋を先読みする事に長けていた。
故に勝つ事は少なくとも負ける事も少ない。
「……これは正当防衛という事にしておくぞ。」
コウを斬れず、焦りから動きが粗雑になってきた最初の一人に気絶させる程度の蹴りを見舞った。
もう一人は面倒臭かったので縹に教え込まれた神仙の術で風を起こし遠くまで吹き飛ばす。
その時、場違いな拍手がその場に響いた。
「そなた、剣も強く神仙の術まで使えるとは……」
声からするとコウと同じ位の少年である。
盲目の彼女に代わり説明すると祖末な藍染めの衣に履き潰す寸前の草鞋を履いた平民の少年だ。
だが持っている剣は装飾と実用とを申し分無く兼ね備えた名剣とでも言うべき逸品である。
到底ただの平民の持ち物とは思えない。
「私は竜(リョウ)。そなたの名は?」
「………コウだ。」


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