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風の音(禮晶)完

「何故そんな表情をする?」
我が事でもあるまい、と言う彼に鷹は首を振った。
「袖振り合うも多少の縁って言葉を知らんのか」
「無論だが、同情は要らんぞ。」
「ただ哀しいな、と思っただけだ」
しばらくの間、二人は何も言わなかった。
「………それに私達の祖先神様達も『普通』ではなかったらしいぞ、伝説では。」
銀が興味を示したので鷹は得意気に話し出した。
「まず、珠(シュ)皇子様。薄藍色の瞳をしていたそうだ。
 今も国と皇族とを守護してくれているという…この御方を祀るのが今日の祭りだ。」
あぁ、と銀が呟いた。
「あれか、よく掛け軸で描かれている長髪の」
「と言うか其処に掛けてあるぞ。」
成程、確かに飾ってある掛け軸に描かれた青年は長い黒髪を風に靡かせて佇んでいる。
薄い藍色…夜明け前の空の様な色の瞳。
「他にもいらっしゃるぞ。何代前だったかな…竜(リョウ)帝の御傍には白銀の髪を持った神女様が、尊い水神様の姫がいらっしゃったそうだ。」
「その神女様の御名前は?」
「……蛟と書いてコウだと伝えられているが…」
何処か拍子抜けした様な表情の銀。
「どうかしたのか?」
「風の民の始祖にも、白銀色の髪の女性がいたと伝えられているんだ。その女性も水関係だったから」
鷹が興味を示したので、今度は銀が話し始めた。
「名前は羽那陀(ハナダ)だと伝えられている。水に関する様々な知識を持っていたとか何とか…彼女の生んだ娘が俺達、風の民の先祖だそうだ。」
此処で鷹はとある疑問に気付いた。
「なぁ、何で水をよく知った女性を始祖とする民の名前が『風』の民なんだ?」


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