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風の音(禮晶)完

人界、桓ノ国。
鷹はご機嫌で輿に揺られていた。
先日、父帝の夢枕に美しい白蛇を従えた珠皇子が現れ、鷹を翔鳳峰に来させる様に仰ったらしい。
迷信深い…いや、信仰心の篤い帝はすぐさま鷹に翔鳳峰へ赴く様に命じた、という訳である。
鷹に(無理矢理)供を命じられた銀が言う。
「お一人で峰に入って、滑落などなさらぬ様…」
周りにも人がいるので敬語は当然の事なのだが、鷹は輿の中で身震いした。…やっぱり似合わない。
「ん?一人で?」
「翔鳳峰は皇族しか入れぬ霊峰。ですから…」
表情を曇らせる鷹。そうだ、忘れていた。
「……そうであったな」
「安心しろ、そう気を落とすな。」
驚いて立ち上がろうとした鷹は輿の天井に頭をぶつけてしまった。ごすっ、と鈍い音が響く。
「…っ!」
「大丈夫か?」
目の前に火結の顔があった。い、いつの間に…と驚いている鷹の心を読んだのかにやりと笑う。
「天帝陛下のお遣いでな。あの少年を翔鳳峰へとお招きする様に仰せつかっているんだ。」
「て、天帝陛下の…」
「まぁそうだが、まずお前達の祖先神様だろう。彼が縹色の瞳の皇子、珠な訳だし。」
曾祖父からは聞いていないのか、と聞かれて鷹は首を振った。
聞いたのは火結神と過ごした日々の思い出が大部分だったのである。
「……あいつ、」
火結は苦笑した。何処か寂しそうな、そして嬉しそうな表情で。
皇族ではない銀を峰に入れる為に、火結は幻術を掛けると言う。
曰く、周囲の者には鷹の影にしか見えなくなるらしい。
「凄い、何かの小説みたいだ」
「………。まぁ、結構何でもアリだからな。色々と…」



「途中で絶対に振り向くなよ。術が解ける」
「はい。…あ、銀に知らせた方が……」
「もう昨日の内に伝えてある。」
それならば、一人で翔鳳峰に入らなくても良いと彼は知っていたという事になるではないか。
「意地悪め…」
「良いではないか。彼、嬉しそうだったぞ。」
表に出さない様に頑張っているみたいだがな、と火結は柔らかな表情で微笑んだ。


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