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妖(和麻)完
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      妖

                  和麻
 キンと小気味よい音が澄んだ青空に響く。同時に上がった白球はきれいな放物線を描いて、その影はどんどん小さくなっていき……校舎裏の雑木林に消えていった。
「勇人、お前何やっているんだよー!」
勇人と呼ばれた少年は「悪ぃー」と言って持っていたバットを放り出して雑木林へと向かっていく。
 ガサガサと茂みの中を掻き分けて野球ボールを探した。勇人たちは正式な野球をするつもりはないのだが、新聞紙を丸めただけのボールは飛距離が芳しくないので野球ボールを皆で割り勘をしたのだ。ボールをなくしたり、壊したり場合は全額弁償だ。安めのものだから大したことはないのだが、勇人は今現在小遣いを止められているのだ。そんな勇人にとっては少しの出費も痛手だ。だから勇人は何としてでも見つけなければならなかった。だが、探すのはたかが拳だいのボール、それを広い雑木林の中で見つけるのは至難の業である。当然見つかることはなく、次第に日が傾いてきた。
「この傷がついた木を俺は最低三回、目にしている……まさか遭難した?」
そのまさかである。
 探す立場にあった勇人は捜される立場になってしまった。

「……やばい。本当に遭難した。日も沈みそうだし、さっきと雰囲気が違う……」
あれから勇人はずっと歩いているが、雑木林を抜けるどころか、もっと奥の方まで入ってしまったようだ。生い茂った草木が勇人の行く手を阻む。もはや弁償云々言っている場合ではない。とにかく脱出しなければと気合いを入れなおした。勇人はゆっくりと目を閉じる。そのまま全神経を感覚器に集中させた。勇人が困ったときにする癖だった。このようにしていると直感力が上がる――と勇人自身は思い込んでいる。しかし、急に風が止み、辺りがしんとする。しばらくすると目を開き、「よし、こっちだ」と確信をもった足取りで進み始めた。


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