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君の前。





私は今、テレビを見ている。
なんの番組かというと、ビジュアル系の番組だ。

さらにいうと、今日の特集は私の好きなバンドである。
そのバンドには私が結婚したい!と思う程に好きな人がいるわけだ。


「将くん素敵だわー」


クッションを抱きしめながら呟く。勿論、テレビ画面を見ながらだ。
するとすかさず返事が返ってくる。背後から。

「それどっちの『将くん』?」

「今テレビに映ってるほう」

「ヒドっ!!」

ちなみに背後にいるのも将くん。
さっきお仕事から帰ってきたばかりで、わりと疲れているらしい。

なのに

「くっつくなー」

後ろからハグされる。

「俺、寂しいんだけど」

「イャ、離してー!将くんが歌ってるの見れない!」

「歌ってない将なら後ろにいますが?」

「今はダメー」

テレビの中では愛しきアリス九號.の皆様が頑張っておられる。
背後では将くんが抱きついている。

「ちょっと、本気で切ないんだけど!」

「うわぁっ」

突然、強く抱きしめられて思わず声を出す。いつから将くんはこんなに甘えん坊になったんだろう。

「はぁ……将くん」

「なに」

「君はもう大人でしょ?」

「名前の前では子供」

「私以外の前だと?」

「…アリス九號.のボーカル。でも今は名前が目の前にいるじゃん」

「………やれやれ」


抱いていたクッションから腕を放し、将くんの腕もやんわりと離す。
そして将くんのほうへ向き直り、優しく抱きしめる。

テレビ画面にはまだ『将くん』がいた。


「仕方が無い、今日のところは甘えん坊の将くんを優先してあげよう」

「毎日を希望します!」

「却下します」

「………」

将くんは黙ったまま私を抱き返し、顔をうずめてきた。

「お仕事、頑張るんだよ?」

「うん。名前にカッコいいって言われるように頑張るもん」

「…今日の夕飯はエビチリと韓国直輸入のキムチの盛り合わせね」

「……却下しま」

「しません」


今日の夕飯は私の好みで、激辛料理。

将くんは目の前にお茶のペットボトルを置いて、辛そうで逆に可哀想になったけど、食べてくれた。


「将くん、涙目になってるよー!」

「いや、だってコレ…辛すぎ…!」

言ってるそばからお茶をがぶ飲みする。

「頑張れ!私が応援してるよ!」

「いや…こればかりは……」

「頑張れ!!応援してるよ!ほら、あともう少し!」

これは





応援という名の拷問だ!





とは、将くんに言っては可哀想なので言わないでおく。






「ご、ご馳走様でした…」

「お粗末様でしたv」

食後の将くんはぐったり。

「豆乳プリンあるよ」

「食べます!」



将くんの顔がぱぁっと明るくなった。

冷蔵庫から豆乳プリンを取り出し、スプーンと一緒に渡す。


時折、母親みたいな気分になるけど(子供いないくせに)

この人がやっぱり、大好き。


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