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拍手ログ6

(08/08.21〜11.20)

「メガネってなんでンな頭よく見えんだろーな」
 さっきから感じていた田島からの得体の知れぬ熱い視線、それはこの台詞によってようやく解決することができた。どうやら花井に何かあるわけではなく、花井のかけている眼鏡に興味をそそられていたらしい。
 ここ最近、田島が物言いたげな顔を向ける時があって、その時の顔と今が同じだったからきっとこのことを考えていたのだろうか。そもそも田島の思考は花井には理解し難いものばかりなので。
「さー」
「それになんかカッコよくね?」
「ふーん」
 そう言いながら田島は興味津々といった表情でズイと顔を寄せてきた。しかし花井は田島のペースに乗せられて堪るかと言わんばかりに、ワークから視線を外さずにひたすらペンを走らせていった。
 花井の性格を表すような綺麗な字が空欄を埋めていく。それをしばらく眺めていた田島は相手にされていないことに怒るどころかその逆で、ニコニコと笑顔を浮かべ、負けじとさらに顔を寄せた。
「だから花井もカッコいいよ」
「だ!…ってめ!場所考えろよっ!」
 ゴンという鈍い音が図書館の一角に響き、花井の手によって机上に押し付けられた田島の額は赤く、花井の顔と同じ色をしていた。隙あれば花井に構う田島にとって、こうした花井からの仕打ちはもう珍しいものではなくなっていた。それどころか嬉しいという気持ちすら起こっている、痛みを伴いながらも。
「なー、ちっと貸して?」
 まだ多少赤くなっている額を物ともせず、田島は花井の眼鏡に手を伸ばした。
「…壊すなよ。つうかワークやれよ」
 拒否して強引に持っていかれるぐらいならば素直に渡してしまったほうが利口だと、花井は田島の手が触れるよりも先に眼鏡を外して机上に置いた。それなのに目の前に置かれた眼鏡を複雑そうな表情で見る田島、どうやら自らの手で眼鏡を外してやることも目的の一つだったらしい。
「さんきゅ。…どーよ?」
 花井の眼鏡をかけた田島はクイクイと眼鏡を上下させながら花井に感想を求めた。
「おお、たしかに頭よく見えんな」
「だろ?オレもメガネかけよっかなー」
 外見が頭良さそうに見えたところで肝心の中身が変わらなければ何にもならないというのに、気を良くした田島は窓に映る自分の顔を見て言った。
「お前、バカみてぇに目イイじゃねーか」
「んー。お、あれだ、だてメガネ」
 思い出したかのように田島は手を打った。以前、水谷が目も悪くないのに眼鏡をかけてきた時にそういうモノがあると言っていた。昔とは違い、今や眼鏡もファッションの一部なのだと。
 よくね?と眼鏡を弄る田島に花井は頑として頷くことはなく、少し不機嫌そうな顔でやり終えたワークをパタンと閉じた。
「やめろ。お前はそのままでいいんだよ」
「……。花井」
「あ?……は、いや、っつうか!ンな深い意味は…ッぐ、」
 真顔で見つめてくる田島に花井は益々焦り、否応もなしに自らどツボにハマっていく。そんな花井に自分から仕掛けたわけではないが、ついしてやったり顔になってしまっている田島がニマリと笑い、今にも沸騰しそうな花井は居た堪れなさから強引に田島から眼鏡を掻っ攫ってしまった。
「くそっ、おら、サッサとやっちまえ!」
 田島の前に広げられている真っ白なワークの上に持っていたシャープペンシルを叩きつけた。しかし一度こうなってしまってはいくら花井が頑張って気丈に振舞おうとしても、ペースは完全に田島のもので。
「花井かわいー」
「だからやれよ…っ!!」
 遠慮という言葉とは縁遠い田島は、可哀相なほど赤く染まった涙目の花井を幸せそうな顔で見つめ続けるのだった。

そのあとすぐにまた殴られたけどさ




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