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考えていたら始まらない

 六限目の授業中、三橋は田島と前後で盛大に寝てしまったせいで先生に頭から黒板消しを落とされた。授業が終わった今でも粉がまだ舞っているようで咳き込みながら廊下を歩く。
 いつも一緒に行く田島と泉は掃除当番で遅くなるから先に行けと言い、本当は待っていたかったが邪魔になっても迷惑だと思ったので箒で素振りをしている二人に手を振り一人教室を出てきた。
 この時間なら誰かしら先にいるだろうと思い、職員室には寄らず直接部室へと向かう。思った通り部室の鍵は開いていた。
「お、はえーな」
「あ、阿部君 一人?」
 そ、一番ノリ、と答える阿部は自分のロッカーの中身の整理をしている最中で、その兄元にはコールドスプレーやら着替えやらが散乱していた。阿部の隣にある自分のロッカーの前で足を止める、するとその散乱した山の中に黒いグラウンドコートを見つけ、三橋は拾い上げた。
「ああ、それお前に貸してやったっけな」
「と、桐青戦のとき!」
 そーそー、あんときゃヤバかったよな、と阿部はあの時のことを思い出したのかアンダーシャツをたたみながら笑った。
 あ、この顔…、笑う阿部の横顔にドキッと心臓が跳ねる。時折見せるやわらかな笑顔がとても好きで、口に出したら怒られるとわかっていても思ってしまう、キレイだなって。
「なに?笑って」
「え、わ、わら…?」
「今笑ってたじゃん、すっげ嬉しそうに」
 ふわふわと気持ちが浮き、阿部に言われるまでそれが表情に出ていたのを自分ではわからなかったらしい。なんかあった?、と聞かれ、この浮いた気持ちをそのまま伝えようとした。阿部君のことがすごく好きなんだよって。そしたらまた笑ってくれるかな、そう思い口を開く。
「あ、あの…!」
「今日のおにぎりの具なにかなー!?」
 突然、部室の外でした田島の声に言いかけた言葉がグっと詰まり、どうしてだかイケないことをしていた気分が三橋を襲う。焦った三橋はなにを思ったのかガラガラに空いた阿部のロッカーに自分ごと阿部を押し込んで勢いよく扉を閉めてしまった。
「おま、なにしてんだ…!」
「…!?ど、ごご ごめ…!」
 二人共細身だとはいえ狭いロッカーに男子高校生が二人、窮屈すぎるほど体が密着していた。
「お前もうそれかよ」
「っとに田島は色気より食い気だよな」
 扉一枚隔てた向こう側から聞き慣れた声がわらわらと近付き、出るに出られなくなった二人の間には、何やってんだこのバカ、と沈黙の中にそんな阿部の声が醸し出され、三橋は自分の仕出かした事態を呪った。
 精一杯の小声で謝ろうとしたが、それは阿部が伸ばしてきた手に意識がいってしまい音もなくストンと落ちてしまった。
「まあいいよ。つぅかお前、さっき何言おうとしてたの?」
 粉付いてる、と伸ばされた手はやさしく撫でるように髪の毛に触れる。それがくすぐったくて嬉しくて、三橋の気持ちはまたふわりと浮いた。
「あ、あの、さっき、阿部君が笑ったのを見たら 思ったんだ」
「なにを?」
 髪の毛を撫でた手は離れることなくそのまま下り、赤みの射した頬を包んだ。
「す、好きだ なって」
 阿部君が…、そう付け足しチラリと阿部の表情を伺う。笑ってくれるかな、と少し期待していた三橋の気持ちとは裏腹に阿部は笑うどころか電池が切れたように真顔だった。
「…!ご、ごごご ごめ…!急にこ こんな…」
 こんな所に無理矢理押し込んで、謝りもしないばかりか一人で浮かれて、何やってんだオレ…。阿部君が怒るのも無理ないだろ。汗をだらだらと流し青褪める三橋、その頬に触れていた阿部の手に力が入り、上から影が落ちてきたと思った時には唇が触れ合っていた。
「あ、あべく…」
「…謝る必要なんてねェだろが」
 そう言った阿部の顔はムスっとしていたがすぐに照れてるんだ、と三橋でもわかるぐらい頬が赤く声がやさしかった。キレイに笑った顔も好きだけど、この顔もすごく好き。だってオレしか見れないって知ってるから。それに。
「阿部君、…かわいい」
「―ばっ!!お前の目ン玉ぁ腐ってンのか!?どう見たってお前のが可愛いだろが!!」
 ぶん殴んぞ!、と言いつつギュウゥっと力いっぱい抱き締められ三橋の口からぷぎゅう、と変な音が漏れた。
 阿部の息が耳元にかかりこそばゆい、力強く回された腕が熱い、交互に重なり合った足が触れ、ヘソの下辺りがひどく疼いた。今更ながら隙間無く密着したこの体勢に心臓が気が気でない。それはダイレクトに伝わってくる鼓動の音から阿部も同じようで。
 熱い、苦しい、おかしくなる。だけど、離れたくない。
「三橋、好きだよ」
「オ、オレも だよ」
 阿部の胸の中に納まっていた腕を伸ばし、両手で阿部の頭をそっと包んだ。額がコツンと触れ合い、三橋がフヒ、と笑うと阿部もニッと笑い返した。
 その笑顔が好き、その声が好き、いつだってオレを見ていてくれるその目が好き。阿部君の全部が好きだ。溢れる想いが体中を駆け巡り、抑えきれず三橋は阿部の腰に抱きついた。
「うおっ!」
 その勢いで阿部は背中を打ち、そのままズルズルと三橋ごと沈んでしまう。上に重なった三橋がまた自分の仕出かした行動に青褪めているのを見ると、堪らなくなって三橋の髪の毛をわしゃわしゃと掻き乱した。
「あー…、声、ダダ漏れなんスけど…」
 扉越しに思いきり躊躇した花井の声がしたが、聞こえないフリをして阿部は三橋の頭を引き寄せキスをした。




(08/03.16)
相互お礼ian様へ

「Caffe Latte」ian様に捧げます。
相互のお礼として 密着体勢になってしまってお互いドキドキしている二人 というとんでもなく素敵なリクをいただいたのですが。ちょ、これ全然初々しくないんですけど…!!阿部なんて慣れすぎてません!?つか三橋も!
あああ…ほんとすいません、外しまくってます。
ian様のみお持ち帰り可です。相互有難うございました!!



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