スマイルデイズ 今しばらくご歓談下さいと司会者のよく通る声が会場内に響き渡る。それを合図に方々から話し声がし出し、元西浦高校野球部の面々も口を開き出した。 「ね、ねぇ、やっぱやめた方がよくない?あとがコワいって…」 テーブルの真ん中に配置してある一本の長いキャンドル。それに身を乗り出している大の大人三人に水谷は無駄と知りつつも怖ず怖ずと異議を唱えてみた。 「あ?んだよ、お前は相変わらずクソレだな」 二十代半ばになっても変わらず毒を吐く阿部に水谷はなんだよー…とこれもまた変わらずに肩を丸める。今日の水谷は旧友の晴れ舞台ということで黒い細身のスーツをしっかりと着こなしているだけに、これでは折角の色男が台無しだと栄口は苦笑しながら水谷の肩を叩いた。 「そーだぜ、今やんないでいつやんだよ!」 そう言って田島はミネラルウォーターが注がれているグラスをよそ見しながら傾けようとしていた。 「田島。コエーからオレがやる」 泉は今にも零しかねない田島の手からグラスを取り、事前に用意していた薄手のハンカチに少し大目に水分を含ませてやる。ハンカチの一部分が濡れたことを確認するとそれを手早く阿部に渡した。 「さーて。楽しませてくれよ、キャプテン」 ニィと悪代官ばりの笑みを浮かべた阿部は泉から受け取ったハンカチでキャンドルの芯を軽く摘んだ。じわ…と含んでいた水分が伝わり、阿部が手を離したときにはすっかり濡れてしまっていた。 「うわ、マジでやりやがった」 握った拳をゴツンとぶつけ合い、成功を喜ぶ阿部と田島と泉を見て呆れた巣山が隣にいる三橋とその隣にいる栄口に視線を送る。 「でも阿部君…楽しそう」 「あはは、可哀相に。花井の焦った顔が目に浮かぶよ」 なぁ?と口とは裏腹に笑顔を見せる栄口、それに三橋と巣山も同じように笑ったのだった。 「お待たせいたしました。お色直しを終え、一段と輝きを増したお二人にご入場頂きましょう。皆様、盛大な拍手でお出迎え下さいませ」 静まり返った場内に美しい音色が流れ始め、スポットライトが当てられた扉が開き二人を照らした。 純白のドレスから真紅のドレスに身を包んだ百枝、その隣にはお色直し前と変わらぬ白いタキシード姿の花井。二人ともお色直しはいらないと言っていたらしく、でも折角の晴れ舞台なのだからと両方の親からある意味懇願され、それに負けた二人は百枝だけお色直しするということで譲歩したという。 「キレイ…」 穏やかに微笑みゆっくりとこちらに向かう百枝に沖が思わずポツリと呟いた。 「うん、ほんと…」 それを聞いていた西広もそう呟いた。 滞りなくキャンドルサービスは続き、程無く新郎新婦が元西浦ナインのテーブルに歩み寄る。二人をよく知るメンバーなだけに花井と百枝も照れ臭そうに苦笑いを見せた。 「……あれ?」 二人がキャンドルに火を灯そうと腕を伸ばすがなかなか灯らない。角度を変えてみるも灯らないキャンドルに花井は焦りつつも、真正面にいた笑いを堪えている三人を見逃さなかった。 「お前ら…ッ」 「花井、監督!」 思わず声を張ってしまった花井に負けない声が二人を驚かせた。 「ご結婚、おめでとうございます!」 第一声は阿部、そして次は栄口だった。その場に立ち上がりお辞儀をする阿部と栄口を筆頭に、残る元西浦ナインも立ち上がって好き勝手言い始めた。 「もー監督!すっごいキレイです!」 「花井くん、も、かっこいいよ!」 「花井テメー、監督独り占めしやがって!」 「花井、監督泣かせんなよ!」 「お幸せに!」 「おめでとうございます!」 「花井、ぜってー幸せになれよ!」 泉が勢いで花井の肩にパンチをしたのを見て阿部と田島も花井に強烈なものをお祝いした。二人を少しの時間止まらせるために仕掛けた悪戯は成功し、キャンドルサービスを忘れかけた花井が田島を捕まえようとしたそのとき、場内いっぱいに百枝の声が響いた。 「みんな!」 真剣な顔つきをする百枝に全員の視線が集まる。 「私が絶対に花井君を幸せにするから、約束する。だから安心して」 ピンと張った空気に凛とした百枝の声、あの頃と何ら変わりなく体の中心に響いては溶けていく。 百枝の言葉に顔を合わせ、頷き合いながら全員笑っていた。ただ一人、ポカンとしている花井に阿部と田島が両サイドから突付いてお前も言えと促した。 「え、あ。…えー、と。オ、オレも、絶対にまりあさんのこと幸せにします!だから、よろしくお願いします…っ!」 ガバっと頭を下げる花井に百枝はクスと笑ってから、とても愛しいものを見るような目で花井を見つめ「はい」と返事をした。 (08/11.30) 「10月のカレンダー」神田様宅の1万打のお祝いに贈らさせていただきました。 神田様の日記での結婚式花百妄想に火がついてしまい一気に書き上げたのですが、後悔はしていません! NLだと花百が一番好きなので書きやすかったりします、はい。 |