アンバランス? 毎週土曜の決まった時間、練習が終わったあとそのまま三橋の家に泊まるのが最近の田島のスタンスとなり、気が付けば第二の息子とすら三橋の母親に思われるほどの常連となっていた。 ニコニコと迎え入れてくれる母親の口から田島の名前が紡がれる度に、くすぐったさと嬉しさから三橋の顔はつい緩んでしまう。自分の大好きな人を大切な家族も好きと思ってくれている、それがすごく幸せで心がほかほかと温かくなるのだ。 今までわからなかった日常の中に転がっていた些細だけれど温かい色。それを拾い上げ気付かせてくれ、与えてくれる田島が振り返ればいつだって傍にいる。大袈裟だと言われようとその光があるから笑うことができる、立ち上がることができる。いつしか三橋にとって田島は太陽よりも眩しく海よりも大きな存在となっていた。 「たじま、くん」 風呂に入ってから夕飯を済ませ、くたくたに疲れきった体を休ませようと早めにベッドに横になった。うつ伏せに倒れ込んだ三橋は太陽の匂いがする枕にしばらく顔を埋め、いつもならすぐに飛んでくる腕が今日は遅いことに気付き重い頭を少し持ち上げ隣を見る。 「っと、わり」 三橋の視線に気付いた田島は仰向けに頭の後ろで組んでいた両手を解き、その片方の腕は強引に三橋の頭の下に潜り込ませ腕枕の体勢をとった。その際、田島の腕に絡めとられた髪の毛が痛かった三橋は少し涙ぐんでしまったが、それを謝りながら唇ですくい上げる田島にすぐに笑顔を見せた。 「さっき、どうか した?」 黙って天井を見上げていた田島が気になって思ったことをそのまま聞いてみる。普段から三橋の発する一言で10理解できる田島だから言いたいことを頑張ってまで言う必要はないのだけれど、田島になら思ったことをわりとスンナリ音にできるまでになった。 それに田島はごく当たり前のように答えるから、三橋は田島とする会話が嬉しくてならない。 「ん?…あーっ今日さ、大塚たちと話してたときの」 田島は一瞬忘れかけていたのか眉をひそめたがすぐに思い出し、三橋の顔の前で人差し指を立てた。 「あ、プロ野球 の」 言われてすぐにその内容を理解した三橋は田島の語尾に自分の言葉を繋げる。 「そー。なんでか当たり前みたく思われてっけど、実はオレ、プロになりてーとか考えたことねぇの」 平然とそう言うと田島は三橋の枕の上に転がっていた球を取り、意味もなく球の縫い目に爪を立てカリカリと弾いた。 「な、んで…?」 驚いたのは三橋の方で、田島の思いもよらぬ発言に聞き返した声が揺れていた。 三橋も田島は絶対にプロを目指しているのだろうと思っていた。榛名みたく具体的にとはいかなくても漠然と将来の視野に入っているのだろうと、そう思っていた。だから単純に驚いてしまったのだけれど、それも話の続きを聞くと少し違っていたようで。 「んーなんつーかさー、野球ができればカタチは何でもいいっつーか。それにまずは大学で野球やりてんだよねっ」 「だ いがく…」 野球ができればフィールドは何だっていい、田島は手の平で弄んでいた球を天井に当たらないように低く真上に上げた。緩く回転する球を見つめながら三橋の脳内で田島の言葉が短く何度もリフレインしてその先が考えられない。 大学へ行く、他の部員が聞いたらその成績でかよと茶化すのかもしれない。けれど三橋にはそれがとてもリアルに聞こえた。それは自分も似たり寄ったりな成績だからというのではなく、田島の言葉にはそれを現実のものとしよう強い力が宿っているから。少なくとも三橋にはそう思えてならない。 田島の見つめる白球のその先には進もうとする道がある。田島のことだから足を止めることなどなく走り抜けていくのだろう、目に見えぬ速さで。そう思うと急に胸が締め付けられ、三橋の目に映る球がどことなくぼやけてきた。 田島君は大学に行って野球を続ける、そこに…オレはいないんだ。 「あ、でも三橋とはずっと一緒にいてえぞっ」 「へ?」 すっかり自分の思考に耽ってしまっていた三橋に突然降ってきた言葉はすぐに取り入れることができず、すっとんきょんな声を上げてしまった。 「え?」 まさかそんな反応が返ってくるとは思わなかった田島は田島で中途半端な笑顔のままで驚いてしまう。 オレへんなこと言ったかなーと頭の上にクエスチョンマークを浮かべる田島がなんだか可笑しくて可愛くて、どうしてそんなにわかってくれるのだろうとさっきとは違う胸の痛みが走る。 「オ、オレ…」 与えてもらうばかりの自分、甘えてばかりでどうしようもないけれどやれることはある筈なんだ。それが自分の決めた道なら尚更のこと。 涙の消えた三橋の目は田島と同じ強い力を持っていた。 「ん?」 自然と出る田島の笑みから優しい聞こえる筈もない音が聞こえた気がする。それに後押しされるようにそっと両手で田島の耳を包み込むと三橋は小さく強く言ったのだった。 「…まじで!?」 本気で驚いた田島がガバッと勢いよく起き上がったものだから三橋も驚いてしまい身を縮めたが、斜め上から降りてくるキラキラとした視線に急かせれ、三橋もゆっくりと上半身を起こした。 「三橋、今の本気か?」 そう言った田島の目は真剣なものに変わり、無意識に三橋の真意を探り出そうとしているようにも見えた。三橋はそれに答えようと深く息を吸い、ゆっくりと吐き出すと真っ直ぐな目線を田島に返し言うのだった。 「ゲ、ゲンミツ に」 「〜っ、三橋大好きだっ!!」 「う、おっ…!」 遠慮なく思い切り抱きついてきた田島の重さと重力に耐え切れずによろけ、三橋の体は田島ごとベッドの下に落ちてしまったけれど、それすらも今の二人には幸せな出来事なのだと思わせる笑い声がしばらく部屋に響いていた。 (08/10.04) ある意味ピロートーク 噛み合ってないのに分かり合ってる田三が好きです。 蒼井の思い描く田三は純粋で深くて単純でって感じ(なにそれ笑) もー、大好きだこいつら!! |