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君に夢中?

 ライバルというにもオコガマシイくらい、目に追えない速さであっという間に進んでいってしまう。それが悔しくて腹立たしくて力の限りを尽くしてきたつもり、だったけれど。
 届かない。どんなに頑張っても追い越すどころか追いつけもしない。限界を感じるにはまだ何もしていないのだと、そう、わかっていたのに。
 顔を見るとアウト。もうロクに目も合わせられない現状が己の弱さを増長していた。
「なぁ、それ本気で言ってんの」
「……本気じゃなきゃ言わねーだろ」
 田島の鋭い視線が真っ向から針のごとく突き刺さる。その視線を避けるように花井の目は常に手洗い場に置かれているバケツから外れることはなかった。
「花井はオレのことナンだと思ってんの?」
 まさか田島からそんな台詞が出てこようとは思ってもみなかったので少し驚いてしまった。売り言葉に買い言葉ではないけれど、正直もうどうでもよかった。田島にどう思われようが花井には関係のないことなのだと。
「…天才、だろ」
 田島にピッタリな言葉だと我ながら思う。というか田島の才能を知っている者なら誰しもがそう思うのではなかろうか。この溢れる野球センスの持ち主に。
 花井の一言を聞いた田島は一瞬押し黙って俯き、拳をグっと握ったが視線を逸らしていた花井にはそれが見えなかった。
「…天才なんてのはな、努力してないヤツが言うもんだろ」
 低く、普段の田島からは想像つかないほど落ち着き払った声に、花井は戸惑いを覚えた。
「たじ…」
「花井は努力してんだろ?見てりゃわかるよ。だから花井には似合わなねぇ」
 田島の揺るぎない真っ直ぐな目、その視線を今度は逸らすことなく受け止めた。
 バカでうるさくてガキみたいなくせに、たまに出てくる核心を突く言動はどうにかならないのだろうか。心臓がいくつあっても足りないというのはこういう時に使うんだろうなと思った。
「…悪かった、もう言わねーよ」
 田島が天才だとは思っているけれど本音の中心ではない。田島の努力は花井だってよく見てきている。百歩譲って素材が違うのだとしてもそこから磨き上げてきたのは他ならない田島自身の努力の賜物なのだから。
 それに他の誰でもない、田島が花井の努力を見ていてくれていた、そして認めてくれている。だから今はそれだけでいい。
「田島の努力、オレもわかってるよ」
「うん」
…すごいヤツだよお前は」
「だって花井が頑張ってっから」
「?」
 オレが頑張ってるからって田島に何の影響があんだ?と花井は意味がわからずに首を捻った。そこへビシと人差し指が突きつけられ一瞬、視界から田島の顔が見えなくなってしまった。
「だって花井に負けたくねぇのっ!」
 指先の向こうで田島はそう言うと今どき小学生でもやらないだろう、アッカンベーをして足取りは軽快にベンチの方へ行ってしまった。
「たじっ、…え?――まじで…ッ!?」
 意識している相手からも意識されていたのだと知ってしまった。しかもその相手が他の誰でもない、田島だったという。
 沸き起こる気持ちはまるで恋焦がれているかのように熱く、腹の底から漲る力は心地良くて落としたばかりの自信というものを拾い上げてくれた。




(08/07.30)(加筆修正08/0802
ライバル関係

小説の書き方を忘れてしまいそうだったので短くてもいいからとガーって書きました。
田島を意識しすぎている花井が好きです。田島も表には出さないけど花井を思いっきり意識してるといい。



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