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確信犯って呼んでくれてもかまわないよ?

 帰りのHRが終わり、割り当てられた清掃場所へ行く者、部活へ行く者、帰宅する者、そうやってそれぞれが動き出し教室の中が一斉に騒がしくなった。
 いつもならその中に加わりグラウンドに直行する栄口だったが、今日はその前に一仕事ある為に教室に居残る。
「さてと、」
 黒板をキレイに磨き上げ、明日の日直のクラスメイトの名前を日付の下に書いた。
「あ、オレ明日日直?」
 チョークを置き、指に付いた粉を払っていると巣山が教壇にまで上がってきた。たった今栄口が書いたばかりの自分の名前をまじまじと見ながら。
「だってオレの次じゃん。今日オレがやってんの見てた?」
「見てたけど忘れてた」
 ったくダメだなーと巣山の発言に苦笑する栄口は教卓から日誌を取り、自分の席にスタスタと戻って行った。
 なんだか子供扱いされたようにもとれなくはないが、そもそも言いたいことがあったから話し掛けたのであって。真面目に日誌を埋めていく栄口の前の席の椅子を拝借し、走らせるペンと連動して揺れる髪の毛に話し掛けた。
「栄口、今日時間ある?」
「今日?練習のあと?」
 巣山が頷くと栄口はちょい待ち、とズボンのポケットから携帯を取り出ししばしにらめっこを始めた。
「うーと…」
 そんな仕草が可愛くて、悪いとは思いつつも眺めさせてもらう。残念ながらその視線に栄口が気付くことはなかったが。
「いいよ。今日姉ちゃん早いし」
 パクンと携帯を閉じ、で、なにがあんの?と聞きながら腰を浮かせて携帯を再びズボンへしまい込んだ。
「オレ昨日臨時収入あってさ。たまにはファミレスでも行かね?」
 いつもコンビニで済ますからファミレスなんて滅多に行くものではなく、増してやバイトもしていない運動部にとってファミレスはどうしても金銭的に敷居が高い。案の定、栄口は嬉しいのかそうでないのか複雑な表情を見せた。
「これ拒否権なしな。おごる」
「う、ぇー…。まじ?」
 少し強引かとも思うがこれぐらいしないと栄口は他人に甘えようとしないのだから。
 時計を見るともうグラウンドに行かなければならない時刻になっていて、それに先程から手の止まっている栄口の邪魔をしていてもいけない。そう思って立ち上がると栄口が何か言いたそうな視線を向けたからあと一言だけ押してみた。
「行く?行かない?」
 赤い色を頬にのせ、落ち着かない様子でキョロキョロと周りを見たかと思うと、今度は恥ずかしそうに俯いた。そして小さな声で言う。
「…ご ちそうさま、です」
「じゃあ決まりな」
 ヒラヒラと手を振りバッグを肩から提げると栄口を残して教室から出る。
 少しずつ目に見えて甘えてくれるようになってきた栄口の態度が嬉しくて小さくガッツポーズしてしまっていた。周りに誰もいなくてよかったと思いつつ、グラウンドに向かうその足取りはアホみたいに軽かった。

 栄口の家からそう遠くないファミレスを選んだのは巣山だった。ここならこの時間でも空いてるからと、そういう何でもないように見せる気遣いがすごいと思う、と同時に堪らなく嬉しく思う。
「なに食う?っても腹減ってねーけど」
「はは、結局クセでコンビニも行っちゃったもんな」
 そう、皆につられて栄口は菓子パン、巣山は唐揚げをついうっかり腹に入れてきてしまっていた。となると何を食べよう、そう考え出すとコンビニで水谷が食べていたアイスがうまそうだったなと思い返しデザートのページを開いた。
 ケーキにアイスにあんみつ、どれもこれも女の子が喜ぶモノばかり埋め尽くされている。なのにある一点から目が離れない。食べたい、けれど男子高校生がこんなもの頼むなんて恥ずかしい気がする、それに。
「なんか迷ってる?」
「え!?な、なんも!」
 巣山に笑われないかがすごく心配というか不安というか。やっぱり違うものにしよう、そう思い直し栄口がページを変えようとした。
「栄口」
「え?」
「なに食いたい?」
 そう言った巣山の表情が今まで見たこともないぐらい大人な顔をしていて、何でもお見通しだという雰囲気がものすごく心臓にキタ。
 今日だけでもう二回、巣山を惚れ直したような気がする。でもそれは悔しいとかそういう気持ちには不思議とならなくて、ゆっくりと自然に流れていく。
「…チョコレート パフェ」
 巣山は笑わない、そう思ってもやはり恥ずかしいものは恥ずかしい。やはり言わなければよかったと後悔しそうになったが、その直後の巣山の一言に驚いてすぐに飛んでしまった。
「じゃあオレも。すいませーん」
「ええ!?」
「チョコレートパフェ2つ。あ、あと水下さい。
 はい、以上で」
 テキパキと店員に注文する巣山を呆然と眺めていることしか出来ない。その視線に気付いた巣山はすかさず栄口に聞いてきた。
「おかしい?オレがチョコパフェ食うの」
「そっ、んなことないよ!」
 首を振り慌てて否定する。栄口が驚いたのは男子高校生が頼むには大それたモノを言ったにも関わらず、同じモノを巣山が簡単に注文したからであって。
 巣山が一人でチョコレートパフェを注文したとしても、珍しいとは思うがおかしいとは思わない。むしろ可愛いと思えそうで。
「だろ?」
 オレも同じと水のなくなったコップから氷を口に含みながら巣山が言った。
 巣山には読心術があるのではないか、それともそんなに分かりやすいほど顔に出てしまうのだろうか。どちらにせよ恥ずかしいことに変わりはないのだけれど。
 コップを置いた巣山の手をコップごと握ると巣山の手がビクと震えた。カッコいいこと言うくせにスキンシップには慣れていないことを栄口はよく知っている。
 今日だけで三回も巣山にやられた。さすがにほんの少し悔しいと思う栄口は今、自分の出せる最高の笑顔で言ってやる。
「さ、さかえぐち…?」
「巣山、大好きだよ」

 それから運ばれてきたチョコレートパフェを笑顔で頬張る栄口とは対照的に、ガチガチに固まったままでぎこちなく食べる巣山。可哀相だったかと思いつつも面白いからフォローは店を出てからにしようと栄口は一人頷く。
 目が合い、赤く染まった巣山の顔をみて栄口はまた笑った。




(08/06.27)
2万打祝いユキ様へ

相方ユキさん宅、2万打祝いに捧げさせてもらいました。
巣栄を書くのはこれが最初で最後なのではないかと思います(笑)でもすごく楽しかったです!



あきゅろす。
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