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バカにつける薬はない

 昼休み、いつもなら教室で一つの机を囲みおなじみのメンバーで昼食をとっている。けれども今日は珍しく田島がどうあっても屋上で食べると強制してきた為に屋上での昼食となった。
 浜田は援団の集まりがあると言っていたので今日はいない。その代わりに屋上に来る際7組の前でバッタリ会った花井と水谷が一緒について来たのだった。
 なるべく人がいないトコがいいからと屋上と言っていた田島の勘は当たっていたようで、風が強いせいもあり屋上には泉達の他に誰もいなかった。
「三橋っ、早く出して!」
「う、お。ま、って」
 地べたに座るなり田島が三橋を早く早くと急かし出す。その様子からどうやら屋上に来たこともそれが理由なのだろうとすぐにわかった。
 逸る気持ちが抑えきれないのだろう、田島の目はギラギラとさっきからずっと三橋の手元を追っている。
「なにが出てくんだ?」
 花井は首を傾げながら水谷に聞いた。
「さぁ?」
 全く検討がつかないと水谷も花井同様首を傾げる。
 クラスでも一緒にいる泉ですらわかっていないのだからこの二人にわかるはずもないのは仕方ないことで。ただただ目の前の天然コンビの行動を見ているしかできないのもこれまた仕方なかった。
「はい、いっぱい作った から、泉君と花井君と、水谷君のもある よ」
 そう言って三橋がようやくバッグから取り出したもの、それは形から見るにどうやらおにぎりだと推測されよう。アルミホイルに一つ一つ包まれた塊が次々とバッグから出てくる様は手品でも見ている気分にさせられた。
「三橋のおばさん、すげー作ったんだな」
 全部で15コと数を数えた花井が感心しながら言うと、すぐに三橋はチガウと首を振った。
「え、じゃあ…」
 三橋の家は三人家族で、まさか父親が作るとは思えないが。
「オ、オレが 作った んだ」
「三橋が!?」
「「マジで!?」」
 泉と水谷の声がキレイにハモったところで田島がもういいだろと珍しく場の士気を下げた。
 掻い摘んで話を聞くところによると、早弁のせいで昼に食べる量が足りない田島の為に三橋が心を込めておにぎりを作ってきてくれた、という流れらしい。
 唖然とする花井と水谷はもっともなのだが、四六時中二人に付き合っている泉はなるほどねと一人納得してしまう。
「三橋っ、食ってい?」
「う、ん。どうぞー」
「いっただっきまーす!」
 バクンとおにぎりに食らいつく田島を見つつ、泉達も転がっているおにぎりを手に取り恐る恐るアルミホイルを剥がす。見た目、は特に問題ない。それどころかキチンとおにぎりになっていて驚いたほどだった。
 いただきます、三人も口を揃えて言い口に含んだ。
「っぐ…」
「ちょ、これ…」
「…もしかして全部、か…?」
 姿形はおにぎりなのに、味がおにぎりとして機能していなかった三橋のおにぎり。そう、これは典型的な間違え。きっと台所に並んで置かれていたのだろう、だから間違えてしまうのも分かる。
 つまりこのおにぎりは甘かった。

 一口食べたきり完全に手の止まってしまった三人に、三橋は自分の作ったモノが失敗作だったのだと気付いたのだろう、顔を青ざめオロオロし始めた。
「た、じまくんっ、も、ヤメた ほうが」
 今の今まで無言で食べ続けていた田島を心配して三橋は止めさせようと試みたが、当の本人はそれでも食べるのを止めようとしない。
「なんで?うまいよ?つーか全部食ってい?」
 それどころかまさかのこの発言。鈍い三橋も田島の言葉を鵜呑みにはしていないように見える。さっきよりも不安そうな表情がハッキリと伺えたから。
「たじ…」
「わりぃ三橋っ、お茶持ってきてくんねぇ?教室におきっぱなんだ!」
 何か言いたそうな三橋だったが田島はそれを遮るように口を挟んでしまう。三橋の性格上、頼まれ事を断ることなどしないと踏んでなのだろうけれど。
「わ、わかったっ」
「あ、三橋」
 三橋はすぐに出入り口へ駆けて行こうとしたが背中を向けたところで田島が呼び止め、不思議そうに振り向いた。
「ほんとうまいからな」
「…っ、う、ん…!」
 泣き顔を見られたくないと思うようになった三橋は成長したと思う。今も溢れ出した涙を零さないよう笑ってすぐに駆けて行ったのだから。

三橋の姿が見えなくなると田島は食べるのを止め、ぐにゃりと背中を丸め縮こまってしまった。その姿からやはりムリをしていたのだと分かり、半ば呆れてしまう。
「おま、いくらなんでも頑張りすぎだろ」
「よくこんな食ったなー」
 花井と水谷が中身がなくなり小さく丸められたアルミホイルの塊を見ながら言った。
「おい、それ脂汗か?」
 よく見ると変な汗の粒が田島の顔から首筋を転々としていて、いかにムリをしていたかを物語っていた。
 なんでそこまでする必要があるのか。マズいならマズい、ウマいならウマい、そうハッキリ言ってあげた方が相手にも自分の為にもなるのではないか、そう泉は思ってしまう。けれど田島はそうではないらしかった。
「だって三橋がガンバって作ったんだから喜んでもらいたいじゃん」
 そう言い切る田島に花井と水谷は逆じゃないか?と顔を見合わせ困惑しているのに対し、田島はお構いなしにまた食べ始めた。

 田島と三橋が恋仲であると知っているのは実は泉だけ。付き合い出す前からよくくっついていたから誰も特別怪しいとか思わないらしかった。
 だから他の人には感じないものも泉には分かってしまう、そんなことはしょっちゅうで。
「なんか…田島がカッコよく見えてきた」
「オ、オレも…」
 ひたすらにおにぎりを頬張る田島に花井と水谷は心打たれたようで感心し出したが泉はそうは思わない。
「…カッコいいわけあるかよ」
 田島に喜んでもらいたいから三橋はおにぎりを作ってきた。きっと料理をするのはこれが初めてだったのだろう、数本の指にバンドエイドが巻かれていた。それにいつもより早く起きたはず。午前中の授業、三橋はほとんど居眠りをしていた。
 そして三橋に喜んでもらいたいから田島は失敗作のおにぎりをうまいと言って食べた。脂汗までかいて。屋上に連れてきたのも周りの興味を買わない為なのだろう。
 それだけ強く想い合っているから、と言えば聞こえはいいが結局のところ互いが互いの為にムリをしている。そんなのがいつまでも続くはずない、疲れてガタがくるのが関の山だ。
「あんまムリすんなよ」
 田島の頭をポンと叩き、きっと意味がないだろう言葉をかける。本能で動くこの二人には未来への助言なんて必要ないのだから。
「三橋が笑ってればオレはそれでいい」
 真面目な顔で珍しくそう言ったかと思えば、すぐにニカといつもの何も考えてないような顔で田島は笑ってみせた。
「やっぱお前らバカだな」
 余りにもアホらしいから少しはそのバカさ加減を見習ってみようかとさえ思え、フと笑ってから泉は手の止まったままだった甘いおにぎりを勢いで食べきった。




(08/06.27)
泉視点での田三

田島と三橋ってお互いを大切に想いすぎて自分を犠牲にしてしまうと思ったり。それを泉視点で書いてみました。



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