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甘い凶器

 食事が終わったあとののどかな昼休み。今日はこれから少しだけミーティングがある為、特に何をするでもなく9組のメンバーは他の皆が来るのを待っていた。
「田島君、なに食べてるのっ?」
 弁当箱をリュックにしまい終えた三橋は、隣に座っている田島の口がモゴモゴと動いているのが気になったようで聞いてみた。食べ終わったばかりだし、さっきまでは口に何も入っていなかったから自然と興味を惹かれたらしい。
 三橋の質問にコレ?、と田島は少し膨らんだ頬を指差し聞き返す。すると三橋がそうだよ、と頷いた。
「飴!今朝花井にもらったんだ。三橋も食いてェ?」
「い、いいの?」
 食べ物をくれると聞いて三橋が遠慮するわけがなく、キラキラと目を輝かせて田島の言葉に喰らい付く。たかが飴一個じゃねェかよ、と泉はそんな三橋を見て呆れたように頬杖をついた。
「おー。口あけて」
 田島の言う通りに三橋はあー、と口を開け、きっと甘いであろう飴玉に想いを馳せ入ってくるのをじっと待った。
「…っ…んぐ、」
 すぐに田島の顔が近付き、視界いっぱいになったと思ったら口の中に甘い味が広がった。離れた田島が自分の唇を舌で舐めたのを見てやっと田島が今まで食べていたものをくれたのだと三橋は気が付いたのだった。
「た、田島!お前なにやっ…!」 
「どう、ウマい?」
「う、うんっ」
 田島のあまりにも突飛すぎる行動に驚愕する泉を他所に、当事者の二人は特に気にする様子もなくもう違う話題で盛り上がっていた。そんな二人を見て泉は自分の方がおかしいのか、という気になってしまいそうになったが、耳をつんざく悲鳴にも似た叫び声に我に返った。
「な、なな、なにやってんだーッ!!!」
「おお。阿部ー」
 天然というイキモノは怖ろしい、阿部に気さくに声をかける田島を見て泉は心底思った。丁度教室に入ってきた花井と目が合うと、彼も似たようなことを思っているのだと表情から見て取れた。
「三橋!おま、なにしてんだ!!」
「う えぇ…!?」
 きっと、イヤ絶対にさっきのを見ていたんだろうな、と有無も言わさない勢いで三橋に怒鳴り込む阿部に泉がフォローをかけてやる。
「あー、阿部。田島が三橋に飴をやったんだ。…口移しで」
「はあぁ!?三橋、どうゆうことだよ!!」
 キレる阿部に怯えながら涙を浮かべる三橋。三橋の様子を見るからに本気で阿部の怒っている理由がわかっていないのだと思い、今度は花井が助け舟を出した。
「あのさ三橋、さっき田島とキスしただろ?」
「え、してな いよ…?」
「……飴もらってなかった?」
「う、うん。もらった よ」
「だ、だからさ…」
 ゆるい押し問答に泉は頭を抱え、阿部はもう我慢なんねェ、と花井の腕を掴んで引き寄せた。
「花井!まだ飴持ってんならだせ!」
「お、おお…」
 阿部の形相に圧されながらも花井はポケットから飴玉を一つ引き出し阿部に渡した、というより強奪された。一体何をするのかと皆が注目する中で、阿部は貰った飴玉を素早く剥くと花井の口内に無理矢理押し込み食べさせた。
 花井が文句を言うよりも早く、花井の頭を両手でガシ、と掴み身長差を埋めるべく引き寄せる。そして花井の口内に収まっていた飴玉を唇と舌を駆使して強引に奪い取ったのだった。
「イイィ…イヤダアァッ!!!」
 悲鳴を声に出したのは三橋で、花井はというと悲鳴を上げることすらできずに近くにあった机の上に音も無く突っ伏した。
「わぁったか!!さっきお前が田島としたのはこうゆうコトなんだ!!」
 ごめんなさい、と泣く三橋に阿部はまだ怒りの治まらない様子でカミナリを落としている。呆れてものも言えない泉がチラリと花井を見ると、いつの間にか田島が花井の傍にしゃがみ込んでいた。
「花井ー、オレにも飴くれよ。阿部みたく」
 放心状態の花井に田島の言葉が届くわけもなく。つくづく報われない男だな、と泉は花井に向けて合掌した。




(08/03.20)
阿三以外の絡み注意



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