SPIRIT OF MASTER
†††
薄れ消えた姿に、伯爵が呟く。
「二人の想いが、同じで良かった…」
伯爵の手の中に、月の光を弾く月虹石。
二人の、『同じ願い』を叶える石。
さわり、と風が花々を揺らして吹き抜けた。
穏やかな漆黒に佇む館。
薄藤色の湯気が、広い室内に漂う。
伯爵は白い指先で、ティーカップを傾けた。
「では、既に亡くなった方だったのですか?」
傍らに立つ執事が尋ねる。
「ああ。彼らは人だった者だね。」
おそらく、出会い、恋に落ち、人生の苦楽を共に、天寿を全うするまで寄り添った男女。
「先に亡くした奥方を偲ぶあまり、迷い込んでしまったみたいだ。」
星鈴蘭。君を偲ぶ花。
その群生する場所に。
「ああ、シャ・リオン。これをまた、しまっておいてくれないかな?」
「はい。」
手の平に乗せた月虹石を。
伯爵は愛しげに見つめた。
Fin
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