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SPIRIT OF MASTER
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水溜まりが見たい、と言うと、周りの友達は変な顔をする。

あっても何の役にも立たないし、泥水を車が跳ね上げたら裾が汚れちゃう。
今のままでいいじゃない。


だって。



外は晴れ。
昨日までの雨が嘘みたい。
綺麗な青空が電線の向こうに見える。

綺麗に整備された道路には水のカケラも残ってない。

全部、コンクリートに覆われた側溝の中だ。

街路樹の根元には色んな色のゼリーカプセル。
植えられた街路樹は人工樹で、虫も寄り付かない。
そもそも虫がいない。

スーパーに並ぶお肉やお魚は健康の為に色んな栄養を持つように作られたクローンで。
野菜やお米、全部そう。

この街には土がない。
海もない。

全部、コンクリートに覆われてしまった。

街路樹に留まる鳥が囀るけれど、仮に捕まえて道路に叩きつけても中から機械が飛び出すだけ。
うちの犬も、そう。

いつだったかひぃばあちゃんが『電気羊を笑えなくなっちゃったわ』と呟いた。
どういう意味?って聞いたら、昔は幻想小説も沢山あったのよ、だって。

今はそんなもの無い。





この街の人達は、この惑星を嫌いになったんだろうと思う。

全部、自分達で作り上げたこの箱庭には、直に惑星に触れる場所なんかない。

見える自然は空だけ。

触れられる自然は雨だけ。





だから、私は切望する。


疑い無く生きている人の中で。

私は、私だということを、確かめたい。

私の命は作りものなんかじゃないと確かめたい。




曇り始めた空を見上げて、私は願う。

水溜まりが、見たいの。







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あきゅろす。
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