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SPIRIT OF MASTER
†††




さあ、と対峙する二人の間に風が吹き抜ける。

夕暮れが終わりかけ、夜が張(トバリ)を下ろしかけていた。


「まぁ、教えても構わないけれどね。」


ふ、と笑って伯爵が薄闇、いまや濃い影を落とす場所から一歩、進み出た。
そして、もう一歩。

革のブーツが野原に進むのに、カツン、と硬い音がする。

そのごとに、夜が訪れを深くしているような錯覚がした。



「ボクの名はオーベロン。聞き覚えはあるかな?信仰深い少年。」



シンはぱちくり、と目を丸くする。



「精霊王の名前だ…」

「…成る程。ここではそうなのか。」



楽しげに微笑を浮かべる伯爵をシンは見つめる。

信じたわけじゃ、ないけれど。



「…それで?精霊王様がなんで此処にいるの?」

「もちろん、君が呼んだんだよ。」

「………?」

「君が、助けて欲しいと、願っただろう?だから、ボクは来た。」







「治せ、るの…?」



恐る恐る尋ねたシンに、伯爵はにっこりと優しく笑いかけた。








深夜。

月明かりの道をケイを連れて、シンは野原に向かう。


大丈夫だろうか。

ケイを連れて行かれないだろうか。


そんな風に思いながら。





「来たね。」



柔らかく発光する伯爵が野原の真ん中に立ってシンを待っていた。


「治る?」


問い掛けるシンに、安心させるように笑うと、伯爵はケイの瞳を覗き込む。


「治るよ。」


短く、伯爵は答えた。

そして、ゆっくりとケイを抱きしめる。


「名前は?」

「………ケイ…。ケイト・リーズ。」

「そう。ケイト。……ボクは君を、愛しているよ。」





見る見る、ケイの瞳から涙が溢れた。

その背を伯爵が優しく撫でる。


「おかあさん、おかあさん、おかあさんっ……

どうして、…出て行ったの…っ…」


泣きじゃくりながらケイは訴える。


「おとうさん、ケイがいたら、邪魔なの…っ?

どうして、…いらないの…っ…?」


ひとしきり激しく泣いたケイを抱きしめたまま、伯爵が頭を撫でた。


「ちゃんと、聞いてごらん。君は愛されている。」







泣き疲れて眠ったケイを、横にして伯爵はシンに言った。


「これが、病気の正体。」


親に、愛されてないと、感じる子供達が掛かる、病。

深く傷つくがゆえに、心を閉ざした。


仕事、仕事で見向きもしない親。

勉強、勉強と抑圧し続ける大人。

治療なんて、簡単だというのに、誰も気付けない街。




「愛していると伝えればいいんだ。本当に、愛しているのなら。」



ボクのように、万物を愛する者を呼ばなくても。
手の届く所に、愛してくれる人はいるんだ。
例え、親でなくとも。











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あきゅろす。
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